祈りの回廊

祈りの回廊 2020年春夏版

「国宝薬師寺東塔落慶」

薬師寺:回廊から東塔〈国宝〉・金堂を望む 写真:田中美紀

12年の歳月をかけ行われてきた国宝東塔大修理が 4月に完了。
薬師寺管主・加藤朝胤氏に話をうかがいました。
薬師寺に創建時から残る唯一の建物で、各層に裳階(もこし)※1を付けたリズミカルな美しさから「凍れる音楽」と賞賛される東塔〈国宝〉。平成21年から大修理のためその姿を見ることはできませんでしたが、この春完了し、4月22日(水)~ 26日(日)に「国宝東塔 大修理落慶法要」が、5月1日(金)~ 10(日)には「国宝東塔 大修理落慶慶賛法要」が営まれます。特に5月の落慶慶賛法要は一般の方も参列して、奉納演奏などを鑑賞することができます(※3)
薬師寺の加藤朝胤管主は「1300年の風雪に耐えた素晴らしい建物。目に見えるものだけでなく、祈り、願い、喜びなど、永年にわたり込められた心を受けとめていただきたい」と話します。「単に文化財として保存するならば、博物館に入れてしまえばいい。この塔はこの地で信仰の対象となり、1300年もの間、絶えることなく祈りがささげられてきました。その祈り、願いは、塔のいたるところに染み込んでいる。だからこそ、この塔は貴いのです」と。

(左)東塔〈国宝〉
(右)2019年3月の「国宝東塔 新旧水煙特別公開」では創建時と新調された新旧の水煙が同時に拝観できました

境内には、昭和43年からのお写経勧進によって再建された金堂、西塔などの朱塗りの鮮やかな堂塔が並び、古色を帯びた東塔とは好対照です。創建から1300年の歴史の中で、土は積り、現在の地面は創建当初と比べると、1m以上も高いそうです。創建時から残る東塔の基壇はその分、金堂、西塔などの復興伽藍より埋もれてしまっていましたが、今回の大修理では、創建時の基壇を保護する形で、上に新たな基壇を築き、高さを揃えました。
また、頂部の水煙(すいえん)※2も新調され、元の水煙は、今後、時期を見て拝観できるようにするそうです。
「復興された伽藍には、みなさまからいただいた何百万巻というお写経をお納めしています。今回東塔にも、大修理特別写経として奉納いただいた『舎利礼文(しゃりらいもん)』のお写経10万巻をお納めしました。皆さまからいただいたお写経とそこに込められた祈りは、今後100年、1000年と受け継がれて行くのです」と加藤管主。
また、5月1日(金)~ 来年の1月17日(日)までは大修理落慶を記念して、通常非公開の東塔内陣が特別公開されます(※3)。そのほかの落慶記念行事については、薬師寺ホームページなどで確認できます。

東塔解体修理の様子 写真:文化財保存事務所薬師寺出張所

※1 裳階:軒下の壁面に付く庇状の屋根。薬師寺の塔は三重塔だが各層に裳階が付くため一見すると六重に見える
※2 水煙:塔の頂部にある装飾金具の一部。特に薬師寺東塔の水煙は美しい飛天の透かし彫りで知られる
※3 新型コロナウイルスの感染拡大防止対策のため当面延期


加藤 朝胤(かとう ちょういん)

1949年愛知県生まれ。23歳の時入山し、高田好胤和上に師事。教務執事、財務執事、薬師寺執事長、法相宗宗務長を歴任。現在、薬師寺管主・まほろば塾塾長、薬師寺宝物管理研究所主任研究員。




薬師寺(やくしじ)

天武天皇が皇后(後の持統天皇)の病気平癒を祈って飛鳥で発願。平城遷都に伴い、現在地に遷りました。度々の兵火や天災で創建時の建物は東塔のみですが、昭和43年からのお写経勧進によって金堂、西塔などが再建されています。


薬師寺
〒630-8563 奈良市西ノ京町457
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