祈りの回廊

祈りの回廊 2024年春夏版

次代を担う二人の仏師
それぞれの仕事場から

仏様との向き合い方を成長させながら拝む人が癒される像を彫れるように

折上稔史おりかみとしふみ

折上稔史氏

Profile

折上稔史氏

1979年徳島県生まれ。南都仏師・矢野公祥師に師事。春日大社第六十次式年造替において師と共に本殿及び若宮の獅子・狛犬像十体の新調に従事。
2020年より古民家を改装した工房と教室を開設。古都奈良で古来の造像法を用いて仏像の制作、修理、修復などをおこなう。

  • 『八幡円福寺達磨大師(重文)御前立像(京都府)』
    日本最古の達磨大師像(重文)の御前立(おまえだち)として制作。
  • 『室生寺派福成就寺薬師三尊像(三重県)』
    本堂が全焼した名張市福成就寺の新しい本尊として制作。

仏師を志したきっかけはありますか?

 大学時代に京仏師の松久朋琳まつひさほうりん師による『仏の声を彫る―京仏師一代』を読み「これだ」と決めました。同じ著者の『仏像彫刻のすすめ』を手本に仏像彫刻に挑戦し、まあ思うようにできませんでしたが、その後、松久師に師事していた南都仏師・矢野公祥師への弟子入りが叶いました。



初志貫徹ですね

 同級生が就職活動を始めても、私は一切しませんでした。仏師を目指してから一度も「辞めよう」となった瞬間はありません。もともとモチベーションが徐々に上がるタイプで、弟子時代も独立してからもできることをコツコツ増やしてきました。お寺の看板や和菓子屋の木型も彫りましたね。



今後の目標などお聞かせください

 何年か前に彫った仏像を見て、もちろん当時精一杯やったものですが、恥ずかしく思うことも出てきました。自分なりに成長するにつれて、仏様との向き合い方が変わってきています。一生勉強。今でも見習いです。仏像は信仰の対象であり正解があるようでないですが、拝む人が癒され穏やかになれる仏様を彫れるように日々研鑽を重ねていきたいです。


信仰と教えの縁となれるように自然と手を合わせたくなるような像を

吉水快聞よしみずかいもん

吉水快聞氏

Profile

吉水快聞氏

1982年奈良県生まれ。2002年東京藝術大学美術学部彫刻科入学。2005年浄土宗総本山知恩院(京都)で伝宗伝戒道場を成満し僧侶となる。
2006年同大学大学院美術研究科文化財保存学専攻保存修復研究領域彫刻入学。2011年博士(文化財)号取得。2011年工房『巧匠堂』設立。2013年浄土宗東光山正楽寺住職就任。
  • 『聖観世音菩薩立像』
    [木彫に彩色截金(檜、銅、漆、膠、天然顔料、金箔、プラチナ箔、ガラス、アンティークガラス、螺鈿など)]像高50cm
  • 『龍盃』
    [木彫(檜)・顔料・膠・金泥・ガラス・真鍮・漆・螺鈿・金箔(截金)・白金箔(截金)・錫粉など]W300 × D300 × H180mm

どうやって今の道に進まれたのですか?

 子どもの頃から、手を動かすことが好きでした。高校は美術科に、大学学部は彫刻科に進み、大学院では文化財保存学科にて学びました。文化財を専攻した理由は、先人が残した彫刻の歴史を学びたかったからです。日本において、その対象となる多くは仏像だったのです。



仏像が学ぶべき道だったと

 寺に生まれ、仏像に関わると「お寺だから」という先入観を持たれがちです。敷かれたレールを歩むようで、葛藤もありました。しかし大学院で仏像の修理に携わるようになり、快慶の創り出した仏像に惹かれ三尺阿弥陀さんじゃくあみだ(※1)の研究をしました。その頃には私も少し大人になり「仏像が必要とされ、仏像が縁となって救われる人がいる。信仰の一助となるのも悪くない」と思うようになりました。


(※1) 高さ90㎝ほどの阿弥陀像の通称。ここではとくに快慶の代表作の一つである東大寺俊乗堂の阿弥陀如来立像(重要文化財)を指す。



今の活動、今後の展望など教えてください

 大学を出てからは彫刻家として個展をほぼ毎年開催する傍ら、仏像の修理なども行います。また住職として法務を行い、数年に一度、新しい仏像も手がけています。最近は創作活動の影響から、仏像ももっと自由な表現をして良いのではないかと考えるようになりました。もちろん「信仰と教え」の軸は揺るぎませんが、法や慈悲、光や柔らかさ、香りなど、そうした空間そのものを創ることができないかと思案しています。安心して手を合わせられる、そんな像をつくることができれば本望です。