祈りの回廊

祈りの回廊 2021年秋冬版

様々な起源や伝来の歴史を持つ奈良。食文化も然り。社寺と関わりを持つものも多くあります。
その由来を紐解けば、それぞれの場に根付く「うまし奈良の食」を、一層深く味わえます。

味噌

遣唐使が伝えた「ひしお」を祖先に持つ伝統的発酵食品

藤原京跡から発掘された木簡には「未醤みそ」、平城京跡から発掘された木簡には「ひしお」の字が見つかっています。これらはわたしたちが良く知る「味噌」の祖先です。高貴な人々の食べものから、時代を下るごとに生活に欠かせない栄養価の高い食品として広まっていった味噌。奈良県下の寺院でも、それぞれ工夫を凝らした味噌が醸造されました。

寳山寺「聖天厄除大根炊き」

年の瀬のふるまいで大人気寳山寺ほうざんじの「宝山寺みそ」

毎年12月1日に行われる寳山寺の「聖天厄除大根炊き」では、お神酒で炊いて特製の味噌だれをからめた大根が振る舞われます。このたれは甘口辛口2種の「宝山寺みそ」として販売され、人気となっています。

宝山寺みそ

寳山寺

生駒市門前町1-1

0743-73-2006

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鑑真和上が持ち込み唐招提寺に伝わる「招提みそ」

「招提みそ」は日本に多くのものをもたらした鑑真和上が持ち込んだものの一つとされています。ナスやウリなどの野菜と混ぜ合わせたボリュームのある「招提みそ」を境内で購入することができます。

招提みそ

唐招提寺

奈良市五条町13-46

0742-33-7900

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東大寺二月堂の行事・修二会しゅにえの食に習った「行法味噌」

奈良を代表する伝統行事に「お水取り」として知られる東大寺二月堂の「修二会」があります。この行を勤める練行衆が召し上がる「行法味噌」は、大豆やごぼう入りでご飯によく合います。

行法味噌

龍美堂

奈良市雑司町 東大寺二月堂南茶所

0742-23-6285

奈良時代から伝わる「素麺そうめん」を始め麺料理は奈良が誇る郷土食です

「奈良時代、大神神社の神主だった大神朝臣狭井久佐おおみわのあそんさいくさの次男である穀主たねぬしが疫病と飢饉から民を救いたいと願ったところ、 神の啓示を受けて三輪の地で小麦栽培に取り組み、その小麦を原料として作られたものが素麺の起源である」。そのように伝承される三輪素麺を筆頭に、奈良の麺文化は、さまざまな形で綿々と受け継がれています。

大神神社「卜定祭」

大神神社で祭祀が行われる奈良の郷土食代表「素麺」

日本の麺文化のルーツとされる「素麺」。素麺作りの神としても崇敬される大神神社では、毎年2月5日に地元特産の三輪素麺の卸値を占う「卜定祭ぼくじょうさい」があり、三ツ鳥居前の大床で卜定の儀式が行われます。

素麺

森正

桜井市三輪535(大神神社二ノ鳥居前)

0744-43-7411

茶人・片桐石州せきしゅう考案の「石州麺」を慈光院でいただく

茶道石州流の開祖・片桐石州が、慈光院で客をもてなすため打ったと伝わる「石州麺」。近年、古書に残る「小泉名物油不入索麺あぶらいらずそうめん」との記述に忠実に再現され、慈光院でいただけるようになりました。

石州麺

慈光院

大和郡山市小泉町865

0743-53-3004

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春日大社ゆかりの「はくたく」と再現した「春日はくたくうどん」

平安時代の日記に「春日大社でふるまわれた」と記される「餺飥はくたく」。小麦粉、米粉、山芋をつないで伸ばした平麺で、うどんのルーツともされます。近年「餺飥うどん」として再現され味わえるようになりました。

春日はくたくうどん

ならや 東大寺店

奈良市春日野町16(夢風ひろば内)

0742-23-5233

饅頭

日本における発祥の地は奈良 社寺と縁の深い甘味がいろいろ

日本に饅頭の製法を初めて伝えたのは中国からやってきた林浄因りんじょういんだと伝わります。奈良市にあるりん神社は林浄因を祭神とし、毎年4月19日に「饅頭まつり」を行っています。全国の菓子業者らが参拝、饅頭を献上する珍しい行事です。さまざまなものの発祥地である奈良ですが、日本における饅頭の歴史もここから始まりました。

林神社「饅頭まつり」

林神社(漢國かんごう神社内)

奈良市漢国町6

0742-22-0612

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食べられるのは年に1回
大安寺ゆかりの「大安寺やきもち」

林浄因が作った餅を大安寺に奉納したとされることから再現された「大安寺やきもち」。毎年1月23日の「光仁会」当日、大安寺境内と製造する菓子店でのみ販売される小豆餡の風味豊かな餅菓子です。

大安寺やきもち

寧楽菓子司 中西与三郎

奈良市脇戸町23

0742-24-3048

大安寺「光仁会」

大安寺

奈良市大安寺2 丁目18-1

0742-61-6312

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春日大社神饌しんせんを模して生まれた「ぶと饅頭」

「ぶと饅頭」は春日大社の神饌「ぶと」に倣った銘菓です。「ぶと」は遣唐使が伝えた「唐菓子とうがし」の一種。それをかたどり、小麦粉で作った皮で小豆餡を包み、表面に砂糖をまぶした揚げ饅頭です。

ぶと饅頭

萬々堂通則

奈良市橋本町34

0742-22-2044

伊勢詣の人々にブーム
長谷寺門前の「女夫めおと饅頭」

江戸時代に伊勢詣りの人々の人気を博した大和の名物を復刻した「女夫饅頭」。こし餡を包んだ白い上用饅頭と紅い酒饅頭で、さらに粒餡を挟んだ一品を、長谷寺の門前町で味わうことができます。

女夫饅頭

やまとびとのこころ店

桜井市初瀬830

0744-55-2221
※土・日・祝日の営業


正暦寺しょうりゃくじ住職 大原弘信さんに伺いました清酒のはじまりといまのお話

酒は仏教とともに伝わってきたと思われ、いくつもの寺で造られるようになっていきました。その中で正暦寺が「日本清酒発祥の地」とされるのは、現在の日本酒の造り方が、正暦寺の酒造りの手法と重なるからです。その手法は、室町時代の『御酒之日記ごしゅのにっき』や、江戸時代の『童蒙酒造記どうもうしゅぞうき 』といった醸造技術をまとめた書物に記され、今に残されました。
 菩提山ぼだいせん正暦寺で醸された銘酒が「菩提せん」です。菩提山の山と泉をかけたのかもしれませんね。この菩提泉の製法を元に菩提もとという酒母の手法が確立します。中世の寺院醸造の大きな特長は白米を用いて、「酒母を使った酒造り」「段仕込み」「搾り」「火入れ」が行われること。いわゆる濁り酒である、どぶろくにはない過程であり、現在の日本酒造りの基本です。
 この技法を復元しての酒造りに、奈良県内の醸造元や奈良県と協力して取り組み、初めて正暦寺で仕込みをしたのが平成11年。毎年、飯米「ヒノヒカリ」での酒造りを重ねてきました。そして今秋は境内を流れる菩提山川の水で育てた酒米「露葉風つゆはかぜ」を使った新しい酒ができました。境内から採収された乳酸菌、酵母菌を用い、菩提山の石清水を仕込み水とした清酒で、文献にある菩提泉を再現したものです。独特の甘酸っぱさを皆さんに味わっていただけることを楽しみにしております。

正暦寺 菩提酛ぼたいもと清酒祭

境内で酒母の仕込みが行われ、清酒の試飲やかす汁の振る舞い(有料)も。令和4年度は1月9日(日)の予定。

正暦寺

境内に立てられた碑。「奈良県菩提酛による清酒製造研究会」に参加する奈良県下8つの蔵元それぞれの菩提酛純米酒は、正暦寺で購入可。一部酒店でも販売されています。

奈良市菩提山町157

0742-62-9569

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