祈りの回廊

祈りの回廊 2023年春夏版


令和5(2023) 年は弘法大師・空海が生誕して1250年となる年です。
弘法大師・空海のゆかり地は数多くありますが、
今回はその中でも歴史・伝承が残っている場所をご案内します。

(監修:種智院大学 佐伯俊源)

弘法大師・空海は、密教の正統な後継者として、日本に密教を伝えて新たに真言宗を開宗した人物です。さらに、漢詩や書の達人であり、梵字にも精通し、多くの著書を残した思想家です。また治水土木の知識などにも造詣が深く、多様な才能を備えて活躍し、後世に「お大師さん」として人々から敬愛され親しまれた日本を代表する多才な文化人でありました。

奈良時代末期から平安時代初期を生きた空海は、「平城京」が置かれた奈良の地との縁も深かったようです。公式の記録には残っていませんが、様々な伝承から、生まれ故郷の讃岐(現在の香川県)より15歳の頃に大和に来て、この地で若き日々を過ごしたと考えられています。

当時、勤操ごんそうなど空海が師事した高僧が籍を置いた大安寺などで仏教教学を学び、吉野大峰山などの大自然の中で山林修行にも打ち込みました。31歳で東大寺で正式に得度し、延暦の遣唐使(延暦23(804) 年出立)にともなって留学僧として中国にわたり、唐の都・長安で密教を学んで日本に請来しょうらい(※1)しました。帰国後は、京都や高野山が活動の主な舞台となりますが、東大寺に灌頂院かんじょういんを設置するなど、奈良の地との縁もひき続き保ち続けました。

また、超人的な能力を発揮したと信仰される弘法大師には、様々な伝説が生まれています。杖をついた場所から泉が湧く「弘法水」は奈良以外でも日本全国に見られています。また、うるさい蛙を叱ったらそれ以降は鳴かなくなった(秦楽寺)、水の珠を持ちだして弁財天に追いかけられた(野川 弁財天)など、独特な逸話も残っています。

今回紹介した場所は、奈良県内の空海伝承が残る場所のごく一部ですが、寺院に限らず、奈良県内には空海に関連するスポットが数多く伝わっています。生誕1250年の今年、人々から変わらず慕われてきた理由を体感してみませんか。

(※1):外国から仏教や経典などを請い受けて持ち帰ること

大安寺

国際的な学問寺として栄えた大安寺。師とされる僧・勤操も籍を置いており、空海もこの境内を闊歩し、経蔵きょうぞうにこもり仏典に親しみました。後に別当(住職)も務めたと伝えられています。

奈良市大安寺 2-18-1

0742-61-6312

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東大寺

奈良市雑司町 406-1

0742-22-5511

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空海寺

奈良市雑司町 167

0742-22-2096

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若き日の空海は東大寺戒壇院で受戒し僧侶となりました。後に別当(住職)に就任したと伝わり、大和に真言密教が浸透してきます。東大寺の末寺・空海寺には自刻と伝わる阿那地蔵あなじぞう(秘仏)(※2)が祀られています。

(※2)一般公開はされていません

益田池堤

土木技術にも秀でた空海が、工事を監修し銘文を書いた灌漑用のため池・益田池。長さ約55m、高さ約8m にわたって堤防跡がのこされており、往時の姿が偲ばれます。

橿原市白橿町 1-10 益田池児童公園

0744-47-1315(橿原市文化財保存活用課)

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岡寺

像高4.85m の本尊・如意輪観音坐像は日本最大の塑像です。由緒によると空海が日本、中国、インドの三国の土を用い、本尊だった金銅の像を胎内に納めて造像したものです。

高市郡明日香村岡 806

0744-54-2007

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佛隆寺

空海が唐から持ち帰ったとされる茶臼が伝わってます。空海の入唐に同行した高弟こうてい堅恵けんねの創建で、唐の皇帝より賜った茶の種子を育てたことから「大和茶発祥伝承地」と伝わります。

宇陀市榛原赤埴 1684

0745-82-2457(宇陀市観光協会)

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荒神社こうじんしゃ

日本三大荒神の一つに数えられ、「高野山の奥社」とも呼ばれています。空海が勧請かんじょうした三宝荒神は、不浄を取り除く「火とかまどの神」で、調理人などから篤く信仰されています。

吉野郡野迫川村池津川 347

0747-37-2001

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野川弁財天

空海が高野山から大峰へ修業に行く際に参籠した場所です。高野山の水不足解消のため天川村の弁財天の水の珠を持ち出した空海。それを追いかけてきた弁財天がこの地にとどまったという伝承もあります。

吉野郡野迫川村柞原 323

0747-37-2150

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轉法輪寺てんぽうりんじ(五條市)

唐から戻り、密教修行のための霊地を探していた空海が、猟師に扮した地主神・狩場明神から貸し与えられた白黒二匹の犬に導かれ、高野山へとたどり着きました。轉法輪寺はその出会いの場所に建立されています。

五條市犬飼町 124

0747-22-4403

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空海が梵字(※3)を象り掘った
つの池の話

あ

天和元(1681)年の『大和名所記』には、空海が梵字をかたどって掘ったとされる、奈良県中部の3つの梵字池「あ・ばん・うんの三池」が記されています。常に水不足に悩まされてきた大和盆地の人々にとって、水に関する奇跡を起こすと信じられた空海は、とてつもなく大きな存在でした。

(※3)梵字: 古代インド語で仏心を表す一文字のこと

あ

秦楽寺じんらくじ(田原本町)

空海が出家宣言の書『三教指帰』を記した場所です。境内の「阿字池」も空海作。

磯城郡田原本町秦庄 267

0744-32-2779

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ばん

百済寺くだらでら(広陵町)

三重塔(国重文)の脇に、空海が掘った「ばん字池」が残っています。

北葛城郡広陵町大字百済 1411-2

0745-48-2202(當麻寺 西南院)

*境内無料

うん

与楽寺ようらくじ(広陵町)

空海が築造した「うん字池」や大きな修行石もあります。

北葛城郡広陵町広瀬 797

0745-55-1001(広陵町役場)

*境内無料(本堂拝観は要事前予約)