祈りの回廊

祈りの回廊 2023年秋冬版

世界遺産と奈良宝物

平城宮跡

奈良市佐紀町

0742-32-5106

(文化庁平城宮跡管理事務所)

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2023年は、「法隆寺地域の仏教建造物」の世界遺産登録から30年で、「古都奈良の文化財」の登録からは25年。2024年は「紀伊山地の霊場と参詣道」の登録から20年を迎えます。奈良県にとって世界遺産の話題が続く年です。

現在、世界遺産登録の暫定一覧表に掲載されている「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」は、2026年の登録を目標にしています。今号と次号(春夏版)の祈りの回廊では、奈良県ですでに登録されている3つの世界遺産と、登録を目指す「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」について紹介していきます。

世界遺産「古都奈良の文化財」は今年で登録から25周年

「古都奈良の文化財」が世界文化遺産に登録されたのは、1998年。東大寺、興福寺、春日大社、春日山原始林、元興寺、薬師寺、唐招提寺、平城宮跡の資産で構成されています。8世紀の日本の姿を今に伝え、東アジアとの密接な文化交流の歴史や、今日も継続される日本の宗教文化の特徴を示していることなどが評価され、登録に至りました。

「古都奈良の文化財」構成資産

世界遺産とはユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が採択した世界遺産条約に基づき、世界遺産リストに登録された物件のことです。人類の歴史によって生みだされ、未来へと引き継がれていく、人類全体にとって「顕著な普遍的価値」を認められた文化遺産や自然遺産が登録されてます。

春日大社

奈良市春日野町160

0742-22-7788

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東大寺

奈良市雑司町406-1

0742-22-5511

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興福寺

奈良市登大路町48

0742-22-7755

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薬師寺

奈良市西ノ京町457

0742-33-6001

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唐招提寺

奈良市五条町13-46

0742-33-7900

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元興寺

奈良市中院町11

0742-23-1377

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春日山原始林

奈良市春日野町

0742-22-0375

(奈良公園事務所)

春日山原始林の詳細はこちら


世界遺産「古都奈良の文化財」の
六社寺を巡る「六社寺共通拝観券」

  • 1社寺につき1回の利用。各社寺から拝観御礼品(散華等)を受けることができるほか、各社寺の歴史などをモチーフにしたデザインの期間限定特別御朱印(別途御朱印料必要)がいただけます。
  • 有効期間:2024年3月31日まで
  • 価格・限定数:1冊5,000円(限定20,000冊)
  • 販売場所:奈良市総合観光案内所・近鉄奈良駅総合観光案内所・奈良まほろば館(東京)他 ※郵便振替による通信販売もございます。

『奈良ドキュメント』が世界遺産の定義を変えた

世界遺産は条約制定当初、石材や煉瓦などを使用した、耐久性のある建造物や遺跡が多いヨーロッパの文化遺産を基準とした考えが強く反映されていました。

日本の建造物は木材を使用し、伝統的な技術・材料を用いた修復を行ったり、解体修理などを行っていたのですが、その意義を欧米の人々に理解してもらうのは、とても困難でした。「法隆寺地域の仏教建造物」や「姫路城」が1993年に登録されると、木材を使用した建造物や修復の文化をどう評価するか議論となりました。

1994年に奈良市で開催された国際会議「世界文化遺産奈良コンファレンス」において、「国や地域によっては伝統的な建築技術・素材では保護し続けることが難しい。物質的な側面だけではなく、地理、気候、環境などの条件と、文化・歴史的な背景を重視すべきである」、すなわち文化の多様性を認める意識が重要だという宣言が採択されました。それが「奈良ドキュメント」です。

この「奈良ドキュメント」は、日本の木造建築だけにとどまらず、アジアやアフリカなど、様々な国の文化・歴史的資産が世界遺産に登録されるきっかけになりました。

「奈良ドキュメント」の採択を経て、1998年、奈良市の社寺・自然・遺跡が「古都奈良の文化財」として世界遺産に登録されました。資産の種類や、認められた価値の内容は多岐に渡っています。「奈良ドキュメント」の内容を実際に表し、登録された世界遺産が「古都奈良の文化財」といえます。

奈良に都が存在していた平城京の中心、平城宮

平城京は710年に藤原京(現在の橿原市)から遷都した都です。平城京の中には平城宮があり、天皇の住まいがあり、儀礼が行われ、行政の中心だった場所です。この時代は中国大陸の大国・唐と交流し、遣唐使によって新しい文化がもたらされ、国際色豊かな天平文化が花開きました。当時は壮大な宮殿が存在していましたが、現在は構造物が全て失われています。

当時の建築物などの資産は残っていませんが、平城宮跡の区画や建物配置が古代アジアの都城の顕著な事例として「顕著な普遍的価値」を表す要素のひとつだと評価されました。

実を結んだ「平城宮跡保存運動」

平城宮はそのまま維持されてきたわけではありません。 平安時代以降には田畑になっていました。幕末に役人でもあり陵墓研究家でもあった北浦定政きたうらさだまさが測量研究復元図を作成します。その後、明治時代の建築史学者関野貞せきのただしが北浦の研究を踏まえ、ここが平城宮の地だと確信。1900年に研究成果をまとめ発表します。このことに啓発された植木商・棚田嘉十郎たなだかじゅうろうや、茶販売業・溝辺文四郎みぞべぶんしろうなど、地元の有志たちが平城宮跡保存運動を始めました。

地元の人々の活動が実り、大正時代には「奈良大極殿址保存会」 が設立。1922年に国の史跡に指定され、1952年には史跡版の国宝とも言える「特別史跡」に指定されました。

棚田嘉十郎
溝辺文四郎

写真提供:奈良文化財研究所

発掘調査は今も進む

昨年2022年に平城宮跡が国の史跡に指定されてから100年が経過しました。この間、平城宮跡では奈良時代の姿を明らかにするため、地下遺構の発掘など長年にわたる調査・研究がされてきました。平城宮跡の発掘調査や研究を担当している奈良文化財研究所の都城発掘調査部が誕生して60年経ちます。その間、発掘や研究成果から8世紀の日本の姿が徐々にわかってきました。

しかし発掘調査はまだ終わっていません。調査が終わったのは約4割で、現在も継続して行われています。これからも驚くような新しい発見があるかもしれません。現在の平城宮跡では遺跡建造物の復原整備も行われ、古代の技術、材料の調査や研究の機会となっています。

発掘調査にともなう現地説明会の様子

写真提供:奈良文化財研究所

平城宮跡資料館

平城宮跡の発掘調査を行っている奈良文化財研究所が、調査結果や研究成果を基に平城宮跡を解説する施設。

奈良市佐紀町247-1

0742-30-6753

平城宮跡資料館の詳細はこちら

天平うまし館・天平みはらし館

うまし館にはおみやげコーナーやカフェ&レストランが。みはらし館には映像で学べるVRシアターなどがある。

奈良市二条大路南4-6-1

0742-35-8201

(平城宮跡歴史公園 管理事務所)

天平うまし館・天平みはらし館の詳細はこちら

平城宮いざない館

出土品や資料公開を通じて奈良時代を今へ伝える学習施設。イラスト・体験設備が豊富で子どもにもわかりやすい。

奈良市二条大路南3-5-1

0742-36-8780

平城宮いざない館の詳細はこちら

世界遺産としての平城宮跡の価値

奈良文化財研究所 展示企画室長岩戸晶子

2021年から奈良文化財研究所の企画調整部展示企画室長を務める。同室では平城宮跡資料館、平城宮いざない館の企画展を企画し、開催する業務を行っている。

世界遺産の中でも、特に平城宮跡ならではの魅力を教えてください。

平城宮跡はかつて国家の首都だった場所ですが、世界的にみると古代国家の首都は、エジプトや中国などあちこちにあります。奈良だけが特に古いわけではありませんが平城宮跡が特に際立っている点は主に2つあります。

1つめは遺跡の残り具合が世界でも随一と言うほどに良いことです。首都でなくなった後も街として続くことは往々にしてよくあることですが、人間の活動が活発に続くと、古い人々の活動の痕跡は後の時代の活動によって上書きされ、壊されてしまいます。また他国の首都は、戦争や侵略によって焼き払われたり、壊されたりすることもありますが、平城宮は、平和的に次の都にうつりました。

しかも奇跡的に地下水が豊富で水分が多い場所だったので、通常であれば腐ってしまうような木製品や植物の種なども、とても良い状態で残っています。代表的なものは木簡ですね。木簡はどの遺跡を掘っても出土するわけではありません。これだけの量、これだけの質で残っているのは非常に稀有なことなんです。木簡は、紙資料には残されていない当時の日常についてのよしなしごとまで様々な情報を提供してくれます。

2つめは、例えば、官僚制度や文書行政など平城宮の時代に形作られた国としての体制やシステムが現在の日本までずっと繋がっていることです。

古都の一部が保護されていることはありますが、
平城宮跡は全体が保存されているのが貴重だと聞きました。

そうなんです。だから平面的な大規模な発掘調査もできるんですよね。保護のされ方も奇跡的です。たとえ江戸時代まで残っていても、近代の開発で破壊されていた可能性もありましたが、平城宮跡は地元の人がかなり早くから保護に動きました。現在では、文化財の保護というと、公的な機関が率先してやるものというイメージがあるかもしれませんが、明治時代はまだ文化財という言葉もなく、ましてや地下にある埋蔵文化財という概念もなく、考古学という学問さえも定着していませんでした。そんな中、一般の人から国に文化財保護を訴えて史跡としての保存に結実したのです。これは世界的に見ても大変珍しいことです。そのおかげで現在の平城宮の姿があるのだと思うと違った景色が見えてきませんか。

古いものが残っているという価値だけではなく、様々な奇跡とたゆまない人々の努力によって守られ、今に残っているということを、誇りに思いたいですし、地域の人たちにも誇りに思ってもらいたい。古いだけでは世界遺産に登録されません。その奥にはどんなことがあるのか関心を持ってもらえたら、海外に向けても誇れる価値ある場所という気持ちが一層湧いてくるのではないでしょうか。

ぜひ皆さんに来てもらいたいですね。

「古都奈良の文化財」では、他に神社やお寺も登録されていますが、奈良時代にはそういった社寺の造営にも国家が関わっていました。そういう意味でも奈良時代の1つの核となるところが平城宮です。

平城宮跡は早い段階で広大な遺跡が国有地化されたおかげで、空間として遺跡が保全されています。近隣にビルが建つこともなく、奈良時代の貴族や役人と同じ景色を見て風を感じることができます。世が世なら天皇しか立つことができなかった大極殿にも立つことができますし、東大寺大仏殿や、薬師寺の東塔・西塔も当時と同じように平城宮跡から見ることができます。

まずはぜひ平城宮跡にお越しいただいた上で、古都奈良を巡ってみると、また違った見え方があるのではないかと思います。発掘調査やそれをうけての整備や復原事業もさらに続いていきます。年々進化していく平城宮跡にこれからも注目していってほしいです。

平城宮跡以外にも! 奈良県内あんな発掘、こんな発掘

文化財が埋蔵されている可能性があっても発掘調査がまだできていない場所は奈良県内にたくさんあります。歴史や教科書が書き変わるような大発見がある可能性が、地面の下に眠っています。

太鼓形埴輪

2022年、田原本町の宮古平塚古墳から出土。完全な形で残っている太鼓形埴輪としては全国初で最古級。古墳時代の太鼓が現在と同じ形状だったことがわかる。(現在非公開)

<唐古・鍵考古学ミュージアム>

磯城郡田原本町大字阪手233-1

0744-34-7100

唐古・鍵考古学ミュージアムの詳細はこちら

鼉龍文盾形銅鏡・蛇行剣だりゅうもんたてがたどうきょうだこうけん

写真提供:奈良市教育委員会

2022年、奈良市富雄丸山古墳から出土したもの。盾形銅鏡の確認は国内初。蛇行剣は2.67mと国内最大。(現在非公開)

<富雄丸山古墳>

奈良市丸山1丁目1079-241