「国宝」とは、文化財保護法に基づき「我が国にとって極めて重要な歴史的・芸術的価値を有するもの」として指定されたものをいいます。奈良県は国宝に指定された文化財の件数で全国3位。その中でも、彫刻に関しては全国1位。その多くが「仏像」です。
奈良に国宝仏が多く存在する理由は、その歴史的背景にあります。朝鮮半島から伝来した仏教は、首都のあった飛鳥の地を中心に国家的な仏教興隆の動きを得て、多くの寺院が建立され、仏像も盛んに造立されるようになります。特に聖武天皇の時代は、仏教の力で国を平和にしようとする鎮護国家思想が強く、仏教美術と遣唐使がもたらした文化が融合した天平文化が生まれ、日本の文化史・美術史に大きな影響を与えました。
都が平安京に遷った後も、南都六宗の寺院は奈良に残りました。特に、権力を握り続ける藤原氏の氏寺である興福寺(奈良市)とその周辺は、貴族の参詣先であり、物見遊山先としても人気でした。その奈良の地で活躍した仏師が奈良仏師です。中でも知られているのが、平安時代から鎌倉時代に活躍した運慶・快慶で、その作風は鎌倉彫刻様式の完成に重要な役割を果たしたと評価されています。このように、奈良の地では祈りの対象として仏像を大切にしながら、造立技術が継承され、優れた仏像を生みだしてきたのです。
奈良県の国宝仏の中でも特に知られているのが東大寺(奈良市)の「盧舎那仏像 (大仏)」や興福寺の「阿修羅像」が挙げられます。また、興福寺と、法隆寺(斑鳩町 )はどちらも国宝彫刻の指定18件と全国一です。
中南和地域にも多くの国宝仏が点在しています。當麻寺(葛城市 )の本尊「弥勒仏坐像」は飛鳥時代の仏像で、塑像 としては日本最古です。流れるような衣文表現と端正な美しさで知られる聖林寺 (桜井市)の「十一面観音立像」は、昭和26年の新国宝制度発足時の第一回に国宝として選ばれたもの。室生寺 (宇陀市)には「十一面観音立像」や「釈迦如来坐像」があり、ともに平安時代を代表する仏像です。安倍文殊院(桜井市)の本尊「騎獅文殊菩薩像」は快慶の作で、約7mもあり、文殊菩薩像としては 日本一の大きさです。
2025年4月19日~6月15日まで、奈良国立博物館では「超 国宝」展が開催されます。日本に5つある国立博物館のうち、仏教美術を中心に収蔵する同館の「超 国宝」展は、 選りすぐりの仏教・神道美術で構成されているとのこと。この機会に、国宝仏をテーマに、奈良をめぐってみてはいかがでしょうか。
国宝建築物の数も
奈良県は国宝建造物の数でも全国1位を誇り、そのほとんどが仏教建築です。一部は国宝として指定されるだけでなく、世界遺産の構成資産となっており、当時の文化と技術を現代に伝えるものとして、国際的な評価を受けているといえます。特に法隆寺の金堂や五重塔は、耐久性のある建造物だけでなく、耐久性の低い木造のような建造物も認めるよう、評価基準が見直されるきっかけになった木造建築です。
奈良県内には他にも注目したい国宝建造物が多数あります。般若寺
(奈良市)の楼門は鎌倉時代のものですが、楼閣づくりの楼門の遺構としては日本最古です。榮山寺
(五條市)の八角円堂は奈良時代に建てられた仏堂です。堂内には極彩色の装飾画が今も残っています。
国宝仏像とともにこれらの建造物にも注目してください。
奈良県の国宝彫刻の指定件数実に
件
寄託※=奈良国立博物館

上記、国宝指定の彫刻について、寄託や貸出で所有者の元に安置されていないものや、通常安置されているお堂の修復等によって、一時的に博物館等に寄託されているものがあります。
また、所有者の元に安置されていても、秘仏として常時拝観できない仏像や彫刻もあります。参拝される前に、各寺院・施設の情報をご確認ください。
彫刻の名称については、国が指定・登録し、文化庁が公開している情報に基づき、一部わかりやすい表記に改めています。(https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/index)