祈りの回廊

祈りの回廊 2025年春夏版

国宝みほとけ
奈良

當麻寺

国宝 弥勒仏坐像

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全国の国宝指定彫刻の件数は141件。奈良にその半数以上が存在しています。
この春は、奈良国立博物館で「超 国宝」展も開催。奈良県内の国宝彫刻に注目が集まります。


「国宝」とは、文化財保護法に基づき「我が国にとって極めて重要な歴史的・芸術的価値を有するもの」として指定されたものをいいます。奈良県は国宝に指定された文化財の件数で全国3位。その中でも、彫刻に関しては全国1位。その多くが「仏像」です。

奈良に国宝仏が多く存在する理由は、その歴史的背景にあります。朝鮮半島から伝来した仏教は、首都のあった飛鳥の地を中心に国家的な仏教興隆の動きを得て、多くの寺院が建立され、仏像も盛んに造立されるようになります。特に聖武天皇の時代は、仏教の力で国を平和にしようとする鎮護国家思想が強く、仏教美術と遣唐使がもたらした文化が融合した天平文化が生まれ、日本の文化史・美術史に大きな影響を与えました。

都が平安京に遷った後も、南都六宗の寺院は奈良に残りました。特に、権力を握り続ける藤原氏の氏寺である興福寺(奈良市)とその周辺は、貴族の参詣先であり、物見遊山先としても人気でした。その奈良の地で活躍した仏師が奈良仏師です。中でも知られているのが、平安時代から鎌倉時代に活躍した運慶・快慶で、その作風は鎌倉彫刻様式の完成に重要な役割を果たしたと評価されています。このように、奈良の地では祈りの対象として仏像を大切にしながら、造立技術が継承され、優れた仏像を生みだしてきたのです。

奈良県の国宝仏の中でも特に知られているのが東大寺(奈良市)の「盧舎那仏像るしゃなぶつぞう (大仏)」や興福寺の「阿修羅像」が挙げられます。また、興福寺と、法隆寺(斑鳩町いかるがちょう )はどちらも国宝彫刻の指定18件と全国一です。

中南和地域にも多くの国宝仏が点在しています。當麻寺たいまでら葛城市かつらぎし )の本尊「弥勒仏坐像」は飛鳥時代の仏像で、塑像そぞう としては日本最古です。流れるような衣文表現と端正な美しさで知られる聖林寺しょうりんじ (桜井市)の「十一面観音立像」は、昭和26年の新国宝制度発足時の第一回に国宝として選ばれたもの。室生寺むろうじ (宇陀市)には「十一面観音立像」や「釈迦如来坐像」があり、ともに平安時代を代表する仏像です。安倍文殊院(桜井市)の本尊「騎獅文殊菩薩像」は快慶の作で、約7mもあり、文殊菩薩像としては 日本一の大きさです。

2025年4月19日~6月15日まで、奈良国立博物館では「超 国宝」展が開催されます。日本に5つある国立博物館のうち、仏教美術を中心に収蔵する同館の「超 国宝」展は、 選りすぐりの仏教・神道美術で構成されているとのこと。この機会に、国宝仏をテーマに、奈良をめぐってみてはいかがでしょうか。

国宝建築物の数も一位

奈良県は国宝建造物の数でも全国1位を誇り、そのほとんどが仏教建築です。一部は国宝として指定されるだけでなく、世界遺産の構成資産となっており、当時の文化と技術を現代に伝えるものとして、国際的な評価を受けているといえます。特に法隆寺の金堂や五重塔は、耐久性のある建造物だけでなく、耐久性の低い木造のような建造物も認めるよう、評価基準が見直されるきっかけになった木造建築です。
奈良県内には他にも注目したい国宝建造物が多数あります。般若寺はんにゃじ (奈良市)の楼門ろうもんは鎌倉時代のものですが、楼閣づくりの楼門の遺構としては日本最古です。榮山寺 えいざんじ (五條市)の八角円堂は奈良時代に建てられた仏堂です。堂内には極彩色の装飾画が今も残っています。
国宝仏像とともにこれらの建造物にも注目してください。

榮山寺
国宝 八角円堂

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奈良県の国宝彫刻の指定件数実に76

寄託※=奈良国立博物館

上記、国宝指定の彫刻について、寄託や貸出で所有者の元に安置されていないものや、通常安置されているお堂の修復等によって、一時的に博物館等に寄託されているものがあります。
また、所有者の元に安置されていても、秘仏として常時拝観できない仏像や彫刻もあります。参拝される前に、各寺院・施設の情報をご確認ください。
彫刻の名称については、国が指定・登録し、文化庁が公開している情報に基づき、一部わかりやすい表記に改めています。(https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/index

130年目の大ニュース

奈良国立博物館開館記念に
「超国宝」集まる!

『超 国宝』って???
奈良国立博物館学芸員の
岩井共二さんに
聞いてみました

「超 国宝」というタイトルは、
非常に印象的です。

この言葉には、『すごい』という意味だけでなく、『超える』という意図も込めています。「国宝」は非常に重要な基準ですが、それだけにとらわれず、美術的・歴史的価値を持つ文化財を幅広く紹介したいという思いを込めました。タイトルを決める過程ではいろいろと悩みましたが、最終的にはシンプルで覚えやすいこの言葉に落ち着きました。「超」というフレーズには少し驚かれる方もいるかもしれませんが、それくらいの意気込みで、観覧者の皆さんに新たな感動を届けたいと思っています。

今回はどのような展覧会なのでしょうか。

当館は基本的に仏教・神道美術を中心に活動してきた館で、過去から現在まで、奈良の多くの社寺の収蔵品を修復したり、預かったりしてきた経緯があります。そういった背景から、かつて当館が預かっていた神仏や展覧会で紹介した名品を一堂に集めた、いわば同窓会のような展覧会を目指しました。

展示構成は大きく7つの章に分かれていて、前半は奈良国立博物館誕生にかかわる名品や資料を紹介し、後半は、奈良国立博物館が取り組んできた仏教美術のテーマにそって名品の数々を紹介します。文化財をどのように保存し、次の世代へ伝えていくか、これを改めて考える機会にしたいと思っています。

国宝
刺繡釈迦如来説法図 (奈良国立博物館)展示期間:2025年4月19日~5月18日

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今回の展覧会で特に工夫している部分などを教えてください。

今回特に力を入れているのは、展示空間の演出です。どのように見せるかで印象が大きく変わります。例えば「釈迦を慕う」という章では、京都の清凉寺せいりょうじ の釈迦如来像を展示します。この像は真言律宗の祖・叡尊えいそん をはじめ、律宗の僧たちに支持され、その模像が各地で造られました。その釈迦如来像と、西大寺の叡尊像を同じ空間に展示します。(※ただし両像とも後期展示のみ)

また、中宮寺の菩薩半跏像の展示には、特別な一室を設ける予定です。中宮寺の菩薩半跏像は如意輪観音と伝えられてきましたが、56億年後に衆生を救いにくる弥勒菩薩として造られたとも考えられています。未来の仏を最後の部屋に配置することで、文化財を未来へつなげる意図を感じていただきたいです。(※中宮寺の菩薩半跏像は後期展示のみ)照明は表面の質感を引き立たせ、陰影が際立つように調整し、静謐 せいひつ な空間に仕上げることで、特別な気持ちになれるような展示を目指しています。

中宮寺
国宝 菩薩半跏像(伝如意輪観音)展示期間:2025年5月20日~6月15日

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円成寺
国宝 大日如来坐像

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来館される方にメッセージをお願いします。

この展覧会は国宝の聖地、奈良全体を知っていただく展覧会です。当館では奈良にゆかりのある文化財を展覧会で紹介しますが、来場される方には、この展覧会だけで完結するのではなく、可能な限り現地にも足を運んでいただき、当館が130年の歴史の中でお世話になってきた仏像・神像を見て頂きたいと思います。今回の展覧会や、仏像館をきっかけに、奈良全体の仏像へ関心を広げていただければ幸いです。

文化財はただ保存するだけでなく、その価値を次世代に伝えていくことが重要です。私たちは、その役割を担うべく日々取り組んでいます。この「超 国宝」展が、過去の文化財を鑑賞するだけでなく、それを未来にどうつなげていくかを考えるきっかけになればと思っています。また、今回の展覧会は、前期と後期で大きな展示替えを予定しています。どちらの会期にもそれぞれの魅力がありますので、ぜひ何度も足を運んでいただければと思います。

奈良国立博物館
  • 奈良市登大路町50
  • 050-5542-8600

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超国宝

奈良国立博物館開館130年記念特別展「超 国宝 -祈りのかがやき-」

会期:2025年4月19日(土)~6月15日(日)(休刊日、開催時間などはホームページにて確認ください)

開館130周年の記念すべき年に、開館以来はじめての大規模な「国宝展」を開催。中宮寺の菩薩半跏像や法隆寺の観音菩薩立像(百済観音)など日本を代表する国宝を筆頭に、奈良の地と、奈良国立博物館に関わりの深い社寺の名宝を一堂に会し、130年の歴史をたどる。

京都国立博物館にて同時開催
大阪・関西万博開催記念 特別展「日本、美のるつぼ ─異文化交流の軌跡─」

会期:2025年4月19日(土)~6月15日(日)(休館日、開催時間などはホームページにて確認ください)

古今東西の芸術文化が混じり合いダイナミックに形づくられた日本美術の至宝が一堂に会する特別展。

奈良国立博物館130年の歩み

◉明治元年(1868)
明治政府が神仏分離令を交付。神道を中心にした国づくりを目指して交付されたこの法令により、日本各地で寺院の廃絶や仏像の流出がはじまる(廃仏毀釈)。
◉明治4年(1871)
文部省内に博物局を設置。
◉明治6年(1873)
ウィーン万博に日本政府として初めて公式参加。万博の成功を通じて、物品を展示することで、文化を外に伝え、逆に外の文化を人々に伝えることができるという価値観が生じるようになった。
◉明治8年(1875)
東大寺大仏殿を会場として「奈良博覧会」が開かれ、正倉院宝物をはじめとした貴重な宝物類が陳列された。これにより、廃仏毀釈により散逸の恐れがあった仏像や寺宝が、「文化の貴重な遺産」として一般に認識されるようになった。
◉明治22年(1889)
帝国博物館(東京)、帝国京都博物館とともに「帝国奈良博物館」を設置することが決定した。特に、奈良に国立博物館を設置する趣旨としては、社寺に関する文化財を保管・公開し、価値を広く世間に知らせ、保護に協力することにあった。

竣工時の本館(現・なら仏像館)

◉明治28年(1895)
開館(当時の名称は帝国奈良博物館)。
◉明治33年(1900)
奈良帝室博物館に改称。
◉昭和21年(1946)
「第1回正倉院展」を開催。
◉昭和22年(1947)
国立博物館奈良分館と改称。
◉昭和25年(1950)
文化財保護委員会附属機関となる。
◉昭和27年(1952)
東京国立博物館の分館から独立して奈良国立博物館となる。
◉昭和43年(1968)
文化庁が発足し、文化庁の附属機関となる。
◉昭和47年(1972)
陳列館新館(西新館)完成。
◉昭和55年(1980)
仏教美術資料研究センターを設立。仏教美術に関する調査研究、資料の作成、収集、整理、保管およびその公開を行う。
◉平成9年(1997)
東新館完成。
◉平成14年(2002)
文化財保存修理所が開所。国宝・重要文化財など、文化財の修理を受け入れている。
◉平成19年(2007)
独立行政法人国立文化財機構 奈良国立博物館となる。