世界遺産「古都奈良の文化財」は今年で登録から25周年
「古都奈良の文化財」が世界文化遺産に登録されたのは、1998年。東大寺、興福寺、春日大社、春日山原始林、元興寺、薬師寺、唐招提寺、平城宮跡の資産で構成されています。8世紀の日本の姿を今に伝え、東アジアとの密接な文化交流の歴史や、今日も継続される日本の宗教文化の特徴を示していることなどが評価され、登録に至りました。
「古都奈良の文化財」構成資産
世界遺産とはユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が採択した世界遺産条約に基づき、世界遺産リストに登録された物件のことです。人類の歴史によって生みだされ、未来へと引き継がれていく、人類全体にとって「顕著な普遍的価値」を認められた文化遺産や自然遺産が登録されてます。
世界遺産「古都奈良の文化財」の
六社寺を巡る「六社寺共通拝観券」
- 1社寺につき1回の利用。各社寺から拝観御礼品(散華等)を受けることができるほか、各社寺の歴史などをモチーフにしたデザインの期間限定特別御朱印(別途御朱印料必要)がいただけます。
- 有効期間:2024年3月31日まで
- 価格・限定数:1冊5,000円(限定20,000冊)
- 販売場所:奈良市総合観光案内所・近鉄奈良駅総合観光案内所・奈良まほろば館(東京)他 ※郵便振替による通信販売もございます。
『奈良ドキュメント』が世界遺産の定義を変えた
世界遺産は条約制定当初、石材や煉瓦などを使用した、耐久性のある建造物や遺跡が多いヨーロッパの文化遺産を基準とした考えが強く反映されていました。
日本の建造物は木材を使用し、伝統的な技術・材料を用いた修復を行ったり、解体修理などを行っていたのですが、その意義を欧米の人々に理解してもらうのは、とても困難でした。「法隆寺地域の仏教建造物」や「姫路城」が1993年に登録されると、木材を使用した建造物や修復の文化をどう評価するか議論となりました。
1994年に奈良市で開催された国際会議「世界文化遺産奈良コンファレンス」において、「国や地域によっては伝統的な建築技術・素材では保護し続けることが難しい。物質的な側面だけではなく、地理、気候、環境などの条件と、文化・歴史的な背景を重視すべきである」、すなわち文化の多様性を認める意識が重要だという宣言が採択されました。それが「奈良ドキュメント」です。
この「奈良ドキュメント」は、日本の木造建築だけにとどまらず、アジアやアフリカなど、様々な国の文化・歴史的資産が世界遺産に登録されるきっかけになりました。
「奈良ドキュメント」の採択を経て、1998年、奈良市の社寺・自然・遺跡が「古都奈良の文化財」として世界遺産に登録されました。資産の種類や、認められた価値の内容は多岐に渡っています。「奈良ドキュメント」の内容を実際に表し、登録された世界遺産が「古都奈良の文化財」といえます。
奈良に都が存在していた平城京の中心、平城宮
平城京は710年に藤原京(現在の橿原市)から遷都した都です。平城京の中には平城宮があり、天皇の住まいがあり、儀礼が行われ、行政の中心だった場所です。この時代は中国大陸の大国・唐と交流し、遣唐使によって新しい文化がもたらされ、国際色豊かな天平文化が花開きました。当時は壮大な宮殿が存在していましたが、現在は構造物が全て失われています。
当時の建築物などの資産は残っていませんが、平城宮跡の区画や建物配置が古代アジアの都城の顕著な事例として「顕著な普遍的価値」を表す要素のひとつだと評価されました。
実を結んだ「平城宮跡保存運動」
平城宮はそのまま維持されてきたわけではありません。 平安時代以降には田畑になっていました。幕末に役人でもあり陵墓研究家でもあった北浦定政が測量研究復元図を作成します。その後、明治時代の建築史学者関野貞が北浦の研究を踏まえ、ここが平城宮の地だと確信。1900年に研究成果をまとめ発表します。このことに啓発された植木商・棚田嘉十郎や、茶販売業・溝辺文四郎など、地元の有志たちが平城宮跡保存運動を始めました。
地元の人々の活動が実り、大正時代には「奈良大極殿址保存会」 が設立。1922年に国の史跡に指定され、1952年には史跡版の国宝とも言える「特別史跡」に指定されました。
写真提供:奈良文化財研究所
発掘調査は今も進む
昨年2022年に平城宮跡が国の史跡に指定されてから100年が経過しました。この間、平城宮跡では奈良時代の姿を明らかにするため、地下遺構の発掘など長年にわたる調査・研究がされてきました。平城宮跡の発掘調査や研究を担当している奈良文化財研究所の都城発掘調査部が誕生して60年経ちます。その間、発掘や研究成果から8世紀の日本の姿が徐々にわかってきました。
しかし発掘調査はまだ終わっていません。調査が終わったのは約4割で、現在も継続して行われています。これからも驚くような新しい発見があるかもしれません。現在の平城宮跡では遺跡建造物の復原整備も行われ、古代の技術、材料の調査や研究の機会となっています。
写真提供:奈良文化財研究所