奈良は、全国の国宝仏の半分以上が集まる、仏像の宝庫。Nara 観光コンシェルジュで自身も大の仏像好きという友松洋之子さんは、「仏像を造立された時代順に見てみると、時代とともに変わっていった様式の変遷がよくわかります」と話します。
友松 洋之子(ともまつ よしこ)
奈良市在住。NPO法人奈良まほろばソムリエの会所属。
第1回Nara観光コンシェルジュアワード最優秀賞受賞。講師、ガイドとして奈良の魅力を発信している。
飛鳥時代の仏像
飛鳥大仏
(銅造釈迦如来坐像)[飛鳥時代・銅造・重文]
面長の輪郭や杏仁形(きょうにんぎょう)と呼ばれるアーモンド形の目は、多くの飛鳥仏に共通する特徴。法隆寺金堂の釈迦三尊像〈国宝〉などにもみられます。
7世紀初頭に造立された像で、像高は約275㎝。日本に現存する最古の仏像といわれます。大部分が後世の補修とされていましたが、近年の調査の結果、現在はお顔や右手の大部分が造立時のままと考えられています。
飛鳥寺 本堂
- 高市郡明日香村飛鳥682
- 0744-54-2126
菩薩半跏(はんか)像
(寺伝では如意輪観音)[飛鳥時代・木造・国宝]
優美な微笑みは古代ギリシャ彫刻などにもみられ、アルカイック・スマイルと呼ばれます。
和辻哲郎が『古寺巡礼』で『神々しいほどに優しい「たましいのほほえみ」』と絶賛した、優美な微笑みが印象的です。衆生を救う方法に思いを巡らせる、半跏思惟像の代表のひとつとして知られます。
中宮寺 本堂
- 生駒郡斑鳩町法隆寺北1-1-2
- 0745-75-2106
薬師三尊像
[飛鳥時代(白鳳期)・銅造・国宝]
飛鳥仏と比べ、シルエットはより写実的に。お顔も丸みを帯び、優しい表情が印象的です。
古代金銅仏の最高峰と称えられる、薬師寺のご本尊です。像高254.7㎝の堂々とした薬師如来坐像の左右に、日光・月光菩薩立像が立ちます。寺は平城京遷都時に藤原京から移転しており、像も同時期に移されたと考えられています。
薬師寺 金堂
- 奈良市西ノ京町457
- 0742-33-6001
奈良時代の仏像
鑑真和上坐像
[奈良時代・脱活乾漆造・国宝]
天平仏の特徴のひとつが、理知的で写実的な表現です。鑑真和上像は日本最古の肖像彫刻としても知られます。
唐(中国)から苦難の末に来日した、鑑真和上の写実的な肖像。像高は80.1㎝。8世紀に造立された像ですが、今もしっかりと彩色が残ります。秘仏で開扉は6月5~7日のみですが、お身代わり像は開山堂で拝観できます。
唐招提寺 御影堂
(2022年3月までは新宝蔵)
特別開帳[6/5(金)~6/7(日)]
※拝観料:4/1より1000円
- 奈良市五条町13-46
- 0742-33-7900
十二神将立像
[奈良時代・塑造・国宝(1体は昭和の補作)]
天平時代には乾漆造など多くの技法が確立しました。新薬師寺の十二神将立像は、粘土で作られた塑造。1300年もの間、両足で立っておられます。
十二神将とは、薬師如来を守護する12の武神の総称。新薬師寺ではほぼ等身大の写実的な像が円陣を組み、本尊・薬師如来坐像〈国宝〉を守ります。干支(十二支)の守護神としても信仰されます。
新薬師寺 本堂
- 奈良市高畑町1352
- 0742-22-3736
平安時代の仏像
釈迦如来立像
[平安時代(前期)・木造・国宝]
平安前期の仏像の特徴のひとつが、翻波式(ほんぱしき)衣文と呼ばれる、大小の波が交互に並ぶ衣の表現。この像は大きな波の間に2本の小さな波が並び、特に漣波式(れんぱしき)衣文と呼ばれます。
室生寺金堂〈国宝〉の中尊で、黒の尊顔と、像高237.7㎝の堂々とした体躯が印象的です。平安前期の造立で、光背に描かれた七仏薬師などから、当初は薬師如来として造立されたと考えられています。
室生寺 金堂
- 宇陀市室生78
- 0745-93-2003
大日如来坐像
[平安時代(後期)・木造・国宝]
運慶に代表される慶派仏師はその後も鎌倉幕府の庇護を受け発展。東大寺、興福寺などにも、多くの慶派仏師による仏像が伝わっています。
鎌倉時代初期に活躍した天才仏師、運慶の最初期の作。長く多宝塔に安置されていましたが、現在は新設された相應殿に移され、多宝塔には平成29年に奉安された、精巧な模刻像が安置されています。
円成寺 相應殿(そうおうでん)
- 奈良市忍辱山町1273
- 0742-93-0353
─ 時代と文化の変遷と主な出来事 ─
古墳 時代 |
552年 | 仏教公伝(538年とも) | |
飛 鳥 文 化 |
592年 | 推古天皇、豊浦宮で即位 | |
飛鳥 時代 |
594年 | 三宝(仏教)興隆の詔(みことのり) | |
607年 | 法隆寺建立 遣隋使開始 |
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609年 | 飛鳥大仏完成(606年とも) | ||
623年 | 法隆寺 金堂釈迦三尊像完成 | ||
630年 | 遣唐使開始 | ||
645年 | 乙巳の変(大化の改新) | ||
白 鳳 文 化 |
670年 | 法隆寺焼亡(8世紀の初めまでに再建) | |
672年 | 壬申の乱 | ||
694年 | 藤原京遷都 | ||
天 平 文 化 |
奈良 時代 |
710年 | 平城京遷都、厩坂寺を平城京に遷し、興福寺と号す |
716年 | 大官大寺(後の大安寺)を平城京に遷す | ||
718年 | 元興寺・薬師寺を平城京に遷す | ||
743年 | 大仏造立の詔 | ||
752年 | 東大寺大仏開眼 | ||
753年 | 鑑真和上来日 | ||
763年 | このころ、鑑真和上坐像完成 | ||
784年 | 長岡京遷都 | ||
平 安 前 期 |
平安 時代 |
794年 | 平安京遷都 |
894年 | 遣唐使廃止 | ||
平 安 後 期 |
1176年 | 円成寺 大日如来坐像完成 | |
1180年 | 南都焼き討ち | ||
鎌 倉 文 化 |
鎌倉 時代 |
1192年 | 源頼朝征夷大将軍に |
1203年 | 東大寺南大門 金剛力士立像造立 |
※年表、時代区分には文献などにより諸説があります