西国三十三所(さいごくさんじゅうさんしょ)は、養老2年(718)に徳道(とくどう)上人が閻魔(えんま)大王からお告げを受け、人々に巡礼をすすめたことに始まります。 岡寺の川俣住職は「今回の記念事業が、今まで巡礼とは無縁だった方にも注目してもらうきっかけになれば」と話します。
33札所全体で行う取り組みのひとつに、“スイーツ巡礼”があります。各札所が周辺の名物スイーツを紹介し、巡礼時に楽しんでもらおうというものです。 岡寺では、お寺で販売するせんべいなどのほか、近くの人気店のかき氷やプリンも紹介しています。 川俣住職は「お菓子を求めて巡礼と聞くと、不謹慎だと思われますか?でも私は、入口がお菓子でも良いと思います」と話します。 「仏さまは、仏門(ぶつもん)の入口は八万四千(はちまんしせん)と説かれました。これは、入口は無限という意味です。おいしいスイーツを求めて、お寺にお越しいただく。その時、せっかくだからと観音さまに手を合わせる。それが、その方の仏門となるかも知れないのです」
2017年、新たに「日本巡礼文化の日」と定められた4月15日には、長谷寺で“西国三十三所草創1300年記念法要”があり、その日から各札所で御朱印を受けた先着1000人に、記念の特別散華(さんげ)が配布されます。 また、県内の4札所では江戸時代の御朱印を再現した復刻御朱印の授与も行われています。「復刻印は、現在のものとは墨書(ぼくしょ)も宝印も異なります。今の御朱印は拝観のしるしですが、昔は納経のしるしでした。 普段“奉拝(ほうはい)”と書く右肩に“奉納経(ほうのうきょう)”と墨書するのはそのためです。できれば2つの印を授かり、違いを楽しんでいただければと思います」。この復刻御朱印がいただけるのは2020年までです。
「まずはあまり深く考えず、旅の楽しみとしてお参りください。御朱印や散華も持ち帰っていただければ、後日見返した時、旅の思い出とともにお寺のことも思い起こされるでしょう。それもまた、観音さまとのご縁なのだと思います」
Profile
川俣 海淳
かわまた かいじゅん
岡寺中興第十七世山主。前総本山長谷寺寺務長。現在は長谷寺顧問に就く。地元においては明日香村教育委員長などを歴任。
西国三十三所の基礎知識
西国三十三所とは?
近畿2府4県と岐阜県に点在する、観音菩薩を祀る33寺の総称が西国三十三所です。巡礼者は各寺で御朱印をいただき、すべて集めると満願(まんがん)。
御朱印がそろった御朱印帳を持っていると、極楽浄土に行けるとされます。札所には番号がありますが、参拝の順番は特に決まっていません。
いつ、だれが始めたの?
養老2年(718)に、閻魔大王から33の宝印を授かった長谷寺の徳道上人が始めたと伝わります。その後花山(かざん)法皇の中興を経て、室町時代以降は庶民にも広がっていきました。江戸時代には、物見遊山を兼ねて巡礼する人も多かったといいます。
なぜ霊場は三十三なの?
観音菩薩は33の姿に変化し私たちを救うと説く、法華経のなかの観音経に由来します。西国三十三所の札所は、聖観音、十一面観音、不空羂索(ふくうけんさく)観音、千手観音、馬頭観音、准胝(じゅんてい)観音、如意輪観音のいずれかを本尊としています。
番外札所とは何?
西国巡礼では33の札所に加え、徳道上人が晩年隠棲し、御廟のある長谷寺近くの法起院(ほうきいん)と、花山法皇ゆかりの2ヶ寺が「番外札所」とされています。3ヶ寺とも本尊は観音さまではありませんが、西国巡礼を草創・中興した2人にゆかりの深い場所なので、巡礼者は番外札所も併せて参拝するのが一般的です。
西国三十三所草創1300年記念事業
草創1300年を記念し、西国三十三所札所会では「いまこそ慈悲の心を」をテーマにスイーツ巡礼などさまざまな事業を開催しています。
詳細はホームページから確認できます。
http://www.saikoku33-1300years.jp/
奈良県外の霊場の情報もこちらからご覧いただけます。
六番つぼさかでら壷阪寺
岩をたて水をたたえて壷阪の
庭の砂(いさご)も浄土なるらん
高取山の中腹にあり、山の傾斜を利用したひな壇のような境内に、伽藍や大観音石像などの石造仏が並びます。本尊の十一面千手観音は古くから眼病平癒で知られ、明治時代には浄瑠璃『壺坂霊験記(つぼさかれいげんき)』が大流行。盲目の沢市(さわいち)と妻お里が観音の霊験で命を救われ、沢市の目も開眼するという筋で、今も歌舞伎などで度々上演されています。
- 高市郡高取町壷坂3
- 0744-52-2016
七番おかでら岡寺
けさ見ればつゆ岡寺の庭の苔
さながら瑠璃(るり)の光なりけり
古代の都・飛鳥の東方の山腹にあり、麓のバス停からは急な坂道を10分ほど登ります。本尊如意輪観音は5m近い巨像で、ふっくらとしたお顔はどこかおおらかな印象を受けます。弘法大師が日本・インド・中国の三国の土で造ったと伝わり、厄よけ観音として信仰されます。花の多い寺で、特に3000株の石楠花が咲く4月末~5月上旬は華やかです。
- 高市郡明日香村岡806
- 0744-54-2007
八番はせでら長谷寺
いくたびも参る心ははつせ寺
山も誓いも深き谷川
初瀬(はせ)山の山腹にあり、賑やかな参道を抜け仁王門を潜ると、399段の登廊が本堂へと続いています。開山は西国観音巡礼を始めた徳道上人。本尊十一面観音は右手にお地蔵さまのように錫杖を持ち、長谷寺式十一面観音と呼ばれます。平成30年3月1日~5月31日は大観音大画軸が開帳され、期間中は特別な御朱印もいただけます。季節の花が美しいことでも知られます。
- 桜井市初瀬731-1
- 0744-47-7001
九番こうふくじ なんえんどう興福寺 南円堂
春の日は南円堂にかがやきて
三笠の山に晴るるうす雲
鹿が遊ぶ奈良公園の、玄関口に建つ興福寺。阿修羅(あしゅら)像でも知られ、境内はいつも賑やかです。古色を帯びた堂塔の中で、ひときわ目を引く朱塗りの八角円堂。これが、第9番札所の南円堂です。本尊の不空羂索観音は鹿皮を纏い、第4の左手には苦悩するすべての人を救うという羂索を持ちます。開扉は10月17日のみという秘仏ですが、参拝者が絶えません。
- 奈良市登大路町48
- 0742-22-7755
掲載している御朱印は、江戸時代の復刻御朱印と、草創1300年を記念し作られた特別印です。窓口で希望すれば、2020年まで授与していただけます。写真上の歌は、巡礼者が霊場をたたえ朗誦する御詠歌(ごえいか)です。
日本最古の巡礼とされる、西国三十三所観音めぐり。
2018年はこの霊場が開かれてちょうど1300年となる年で、札所である各寺では、
さまざまな記念事業が開催されています。
奈良県内にある西国札所は、壷阪寺、岡寺、長谷寺、興福寺南円堂の4ヶ寺。
そのひとつ、岡寺の川俣海淳住職に、記念事業の取り組みについてお話しいただきました。