春日大社 春日若宮おん祭
写真:野本暉房
中国系の楽舞を源流とする左舞「蘭陵王(らんりょうおう)」。蘭陵王長恭(ちょうきょう)という勇将が終戦の際、平和を祝ったとされる舞
東遊(あずまあそび)は 安閑(あんかん)天皇の時代、駿河国の有度浜(うどはま)に天女が降り、舞い遊んだという故事から起った東国の風俗舞といわれます。子供が舞うのは他に例がなく、大変珍しい舞
写真提供:春日大社
平成28年10月1日 春日大社国宝殿が開館
旧称春日大社宝物殿は、新指定の国宝と重要文化財を加え国宝352点重要文化財971点をはじめ王朝の美術工芸、日本を代表する甲冑や刀剣など宝物の数々を展示する春日大社国宝殿としてオープン。
鼉太鼓(だだいこ)ホールには、野外の舞楽演奏で用いられる鼉太鼓も展示される。高さ6.5m、重さ約2tというスケールに改めて驚かされます
朝鮮半島系の楽舞を源流とする右舞「納曽利(なそり)」。伝来不詳だが、竜の舞い遊ぶさまを表した曲といわれます
春日大社
- 12/15(木)~18(日)
- 奈良市春日野町160
- 0742-22-7788
- JR・近鉄奈良駅から春日大社本殿行きバス終点下車、徒歩すぐ
JR・近鉄奈良駅から市内循環バス「春日大社表参道」下車、徒歩約7分
日本の雅楽 はじまりの地 奈良
雅楽伝来
雅楽は仏教とともに渡来しました。現代では神社で奉納されているイメージが強いかもしれませんが、本来は仏様を荘厳(しょうごん)する、つまりお堂や像を美しくも厳かに飾り、祈りを捧げるための音楽と舞踊です。雅楽には大きく4つの種類があります。 わが国古くから伝わった「国風歌舞(くにぶりのうたまい)」、朝鮮半島や中国などから伝えられた「舞楽(ぶがく)」、器楽だけの合奏となる「管絃(かんげん)」、器楽の演奏を伴う平安時代の声楽「朗詠・催馬楽(ろうえい・さいばら)」などです。 雅楽が伝えられ、発展した地。そして絶えることなく受け継がれ、本来の雅楽がそうであるように、今なお神仏に歌や舞が捧げられている地。それが奈良です。
奈良で雅楽に触れる
奈良で雅楽の神髄に触れることができる最たる機会は、やはり春日大社のおん祭でしょう。国風歌舞のひとつである東遊(あずまあそび)、慶賀の際には必ず舞われる萬歳楽(まんざいらく)や、代表的な舞楽の一つである蘭陵王(らんりょうおう)。粛々として絢爛豪華(けんらんごうか)な歌舞の世界に、瞬きをするのも忘れます。
また、雅楽伝承の立役者とも言うべき人物、狛近真(こまのちかざね)を祭神とする拍子(ひょうし)神社が、興福寺や春日大社の程近くに残されています。狛近真は、雅楽を後世に伝えるべく『教訓抄(きょうくんしょう)』という書物に、雅楽の知識や技法をまとめました。この『教訓抄』は800年近い時が流れた現在も、雅楽のバイブルとなっています。
雅楽の生き字引 雅楽を語る
雅楽はおん祭、おん祭は雅楽
雅楽といえば春日若宮おん祭、おん祭といえば雅楽です。おん祭は春日大社だけでなく、もともと興福寺も主催者でしたが、明治維新の神仏分離ひいては廃仏毀釈でこのかたちが崩れました。しかし、法隆寺、東大寺、薬師寺などの大寺では、現在も大きな法要に雅楽がかかせません。時にはホールで演奏会形式で雅楽を鑑賞することもできますが、奈良では常に雅楽は寺社とともにあり、仏様にお捧げし、神様に楽しんでいただく。それを人々が拝聴拝見する。その雅楽本来の姿を守り続けるのが春日若宮おん祭です。
東大寺大仏開眼、雅楽ここに極まれり
雅楽の歴史において、「これぞ雅楽の集大成」というものを挙げるならば、それは天平勝宝4年(752年)の東大寺大仏開眼供養会(だいぶつかいげんくようえ)です。並んでおられる孝謙天皇、聖武太上天皇、光明皇太后。読経が響くなか開眼がなされ、歌舞をもって仏様を荘厳するのです。日本古来の舞、中国大陸、朝鮮半島や渤海(ぼっかい)から伝わった雅楽、そしてベトナムやインドさらにはシルクロード各地のさまざまな国の音楽や舞踊が一堂に会したという大仏開眼供養会(だいぶつかいげんくようえ)。これは雅楽の一頂点です。続日本紀(しょくにほんぎ)には「筆舌に尽くしがたい」と記されました。
写真提供:東大寺
大仏開眼供養図(部分)
写真:植田英介
大仏開眼1250年慶讃大法要
聖武天皇祭
雅楽の危機
そんな雅楽も途絶えかねない事態を経験しています。口伝での伝承が危ぶまれた鎌倉期。これは雅楽の衰退途絶(すいたいとぜつ)を憂いて『教訓抄(きょうくんしょう)』を記した狛近真により救われました。次の危機は廃仏毀釈の明治期です。この時は、おん祭さえも危機に瀕しました。しかし「なにがあろうと春日若宮おん祭を続けて伝えていかなければならない」とした志あるわずかな人々によって、奈良の雅楽はかろうじて守られたのです。
いまひとたびの「雅楽は仏教と共に」
雅楽は仏教と共に、わが国に伝わりました。「仏」を荘厳つまりお祀りするのに必要なのが「花」「灯り」「香」「水」「音楽と舞踊」。「音楽と舞踊」が雅楽です。
「これぞ雅楽の集大成」として東大寺の大仏開眼のことを申しましたが、次に奈良で大きな法要が行われ、こうした雅楽の粋に触れる機会は、興福寺中金堂の落慶法要(平成30年予定)。この時には、おそらく雅楽の楽器の一つ「振鼓(ふりつづみ)」が登場します。これは非常に珍しいもの。私たちが平成14年に行われた大仏開眼1250年慶讃(けいさん)大法要で演奏した以来となるのでは。皆さんが「でんでん太鼓」と呼んで親しんでいるあの太鼓の起源の楽器です。
これからも奈良の雅楽は、宗教音楽としての本来のあり方を伝えるものとして受け継がれていくのです。
Profile
笠置 侃一
かさぎ かんいち
昭和2年(1927)生まれ。雅楽奏者で南都楽所(なんとがくそ)※楽頭。奈良大学名誉教授。平成23年度日本芸術院賞授賞。
※南都楽所とは:狛光高を祖として始まった旧南都楽所の伝統を継承する雅楽団。宮中方、天王寺方とともに南都方と呼ばれる三方楽所の一つ
お寺の雅楽 お社の雅楽
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写真:脇坂 実希
大神(おおみわ)神社 観月祭
仲秋の名月にあたる日、管絃、神楽が奉納されます。参道や斎庭に並ぶ灯火、そして東の空に浮かぶ満月。夢の世界のような美しさが幻想的です。
- 9/15(木)
- 桜井市三輪1422
- 0744-42-6633
- JR三輪駅から徒歩約5分
近鉄桜井駅から天理駅行きバス「三輪明神参道口」下車、徒歩約10分
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写真:野本 暉房
氷室(ひむろ)神社例祭
三方楽所南都方の拠点だった氷室神社の例祭。古くは「氷室の舞楽祭」と称えられ、今も「夕座の舞楽」で南都晃耀会(こうようかい)等により11曲の奉納が。
- (宵宮祭)9/30(金)
(例祭朝座・夕座)10/1(土) - 奈良市春日野町1-4
- 0742-23-7297
- JR奈良駅から市内循環バス「氷室神社・国立博物館前」下車徒歩約すぐ
近鉄奈良駅から徒歩約15分
- (宵宮祭)9/30(金)
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写真:野本 暉房
浄見原(きよみはら)神社 国栖奏(くずそう)
舞翁二人、笛翁四人、鼓翁一人、歌翁五人による国風歌舞。「日本書紀」に縁起が記される祭祀で、今なお地元の方が歌舞を伝承し続けています。
- 2017.2/10(金)
- 吉野郡吉野町南国栖1
- 0746-39-9237(吉野町観光案内所)
- 近鉄大和上市駅下車、タクシーで約25分
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写真提供・舞人:笠置侃一
(10年に一度の聖霊会にて)法隆寺 聖霊会(しょうりょうえ)
舞楽が奉納される「聖霊会(大会式(おおえしき))」は10年に一度(次回は2021年)営まれ、例年は3月21日夜の「お会式逮夜(おえしきたいや)」と22日の「お会式」で管絃を拝聴することができます。
- お会式 2017.3/22(水)~24(金)
- 生駒郡斑鳩町法隆寺山内1-1
- 0745-75-2555
- JR 法隆寺駅から法隆寺門前行きバス終点下車、徒歩すぐ
近鉄筒井駅から王寺駅行きバス「法隆寺前」下車、徒歩すぐ
雅楽と伎楽は同じもの?
伎楽は「日本書紀」にも記された日本最古の無言の仮面舞踏劇。752年の大仏開眼供養で奉納されましたが、徐々に衰退途絶。鎌倉期の『教訓抄』に伝わる内容と、正倉院などに納められている装束や伎楽面を手がかりに1980年の大仏殿昭和大修理落慶法要で復元・復興されました。薬師寺で上演されている創作伎楽「三蔵法師求法の旅」は伎楽を鑑賞できる貴重な機会です。
薬師寺 玄奘三蔵会大祭(げんじょうさんぞうえたいさい)
- 毎年5/5 開催
- 奈良市西ノ京町457
- 0742-33-6001
- 近鉄西ノ京駅から徒歩すぐ
JR・近鉄奈良駅から六条山行きバス「薬師寺」下車、徒歩すぐ
社寺紹介へ
【宝物に見る雅楽】
雅楽の演奏以外にも、雅楽に触れることができるものがあります。正倉院には多くの宝物が納められ、楽器や面など雅楽にまつわる宝物が多く伝えられています。また社寺に伝わる文物にも、歌舞を奏でる様子が描かれた意匠をしばしば見出すことができます。
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写真提供:宮内庁正倉院事務所
正倉院宝物 管楽器「笙(しょう)」
壺部側面に笙を吹く人物などがあらわされている。
第68回正倉院展では宝物64件が展示される予定で、そのうちの一件が「笙」。竹製の管楽器です。- 第68回正倉院展 10/22(土)~11/7(月)
- 050-5542-8600(NTTハローダイヤル)
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東大寺 金銅八角灯籠(国宝)
鈸子を奏でる音声(おんじょう)菩薩 (オリジナルは東大寺ミュージアムに所蔵)
東大寺大仏殿の正面に立つ八角灯籠。8 面の火袋のうち4 面の羽目板に音声菩薩が浮き彫りされており、それぞれ横笛、竪笛、鈸子(ばっし)、笙を奏でている様子を間近に見ることができます。横笛と縦笛の羽目板の部分は奈良時代の東大寺建立当初のもの、鈸子と笙の部分の羽目板は複製品です。 -
写真:豊田 定男