祈りの回廊

祈りの回廊 2026年秋冬版

み仏をまなざす人み仏をまなざす人

明治から昭和、そして現代へ。奈良の仏像を撮り続けてきた写真家たちの系譜を辿ります。
また、「奈良大和路仏像ポスター」の新作を撮影し、「祈りの回廊」表紙も手がけた三好和義さんに、奈良の仏像を撮ることについてお話を伺いました。

  • 工藤 利三郎(くどう りさぶろう)

    徳島市生まれ。警察官として西南戦争に従軍した後、古画鑑賞会の写真班で古書画の撮影に携わり、写真術を身につけた。明治26年(1893)、45歳で奈良・猿沢池東畔に写真館「工藤精華堂(せいかどう)」を開業。法隆寺の学僧・佐伯定胤との交流を深め、古社寺保存法にかかわる指定申請用の記録写真から社寺建築や仏像を数多く撮影した。写真集『日本精華』全11巻を刊行。修理以前の姿を伝える作品も多く、文化財の研究上の価値が高い、奈良における古美術写真の草分けである。

  • 小川 晴暘(おがわ せいよう)

    兵庫・姫路市生まれ。奈良の仏像に感銘を受け、會津八一(あいず やいち)の勧めで大正11年(1922)「飛鳥園」を創業。黒い背景の中に仏像を浮かび上がらせた表現などを通じ、文化財写真に芸術性をもたらした。没後は三男・小川光三が黒バックを用いた撮影など飛鳥園スタイルと呼ばれるような仏像写真をカラーの時代へ受け継いで行った。現在、「飛鳥園」は創業100年を超えてなお奈良で仏像撮影を続け、現在も奈良を拠点に文化財撮影を続けている。

  • 入江 泰𠮷(いりえ たいきち)

    奈良市生まれ。戦後、奈良の仏像が接収されるとの噂を耳にし、東大寺をはじめとする仏像の撮影に取り組んだ。以後生涯にわたり大和路の風景や仏像、行事を撮り続けた。端正な構図と独自の色彩表現で知られ、『古色大和路』『萬葉大和路』『花大和』の三部作で菊池寛賞を受賞。約8万点の全作品は入江泰𠮷記念奈良市写真美術館に収蔵され、多くの日本人が抱く奈良のイメージを形づくった。

  • 土門 拳(どもん けん)

    山形・酒田市生まれ。日本工房で報道・対外宣伝写真家として携わる。昭和14年(1939)に室生寺を初めて訪れて以来、古寺仏像の撮影を生涯のテーマとした。仏像の手足や、面相、建築の細部を大胆にクローズアップする徹底したリアリズムで対象の本質に迫った。脳出血で倒れ、車椅子生活となった後も撮影を継続し、悲願の雪の室生寺をついに撮れたのは初訪問から40年目のことだった。写真集『古寺巡礼』全五集を完結させ、古寺・仏像写真に新たな表現を拓いた。

  • 永野 太造(ながの たぞう)

    大阪市生まれ。終戦後、奈良国立博物館東側の茶店「永野鹿鳴荘」を継ぎ、独学で写真技術を習得した。昭和27年(1952)発足の奈良国立文化財研究所の調査に同行し、社寺の仏像を撮影。また『奈良六大寺大観』にも携わる。東大寺法華堂・月光菩薩像の一枚は昭和31年(1956)「奈良大和路」ポスターに使われ、翌年の世界観光ポスター展で最優秀賞を受賞した。先達・工藤利三郎のガラス乾板の寄贈にも尽力。自身の約7千枚のガラス乾板は帝塚山大学に寄贈され、現在も研究資料として活用されている。

  • 飛鳥園庭園東屋(写真展示スペース)

    奈良市登大路町 59

    0742-22-2872

  • 入江泰𠮷旧居

    奈良市水門町 49-2

    0742-27-1689

    ※入江泰𠮷記念奈良市写真美術館(高畑町)は、改修工事のため2026年10月から入館できません。(2027年3月末までの予定)

写真家三好和義さんに聞く

奈良の仏様との時間

❖ 奈良との出会い、写真家への道

仏像に興味を持ったのは、小学校6年生の修学旅行で奈良を訪れた時からです。東大寺で真剣に写真を撮影している当時の自分の姿が、今も写真に残っています。

中学生になると、徳島から夜行船に乗り、一人で奈良へ通うようになりました。なかでも東大寺が好きで、法華堂で一日を過ごすこともありました。

私が写真を始めた頃、写真の世界で最も著名だったのは土門拳さんです。いつか土門さんのように仏像写真を撮りたいと思っていました。大学を卒業した頃、土門さんのオリジナルプリントを手に入れる機会がありました。原板から焼かれたプリントには、単なる像の記録を超えた精神性のようなものが宿っていると感じ、それを見て初めて、「こういう気持ちで撮ればいいのか」と分かった気がしました。

❖ 写真だからこそ見えるもの

古い写真には、作品としてだけでなく、記録としても大きな意味があります。以前、小川晴暘さんが中国で撮影した写真を現地へ持って行き、博物館の方に見せたことがあります。今の中国には残っていないものが写っている、非常に貴重な記録だと喜ばれました。

また、法隆寺の玉虫厨子(たまむしのずし)を撮影した時のことですが、撮影した画像を拡大すると偶然、肉眼では見えない指紋が写っていました。調べると、戦前に厨子を屋外へ出して修復した記録があり、その当時から指紋の存在は知られていたようです。

截金細工(きりかねざいく)や仏像の背中に描かれた模様なども、肉眼ではほとんど見えないものが、画像のコントラストを調整すると浮かび上がることがあります。今はデジタル技術が飛躍的に進みました。現代の写真だからこそ写せるものが確かにあります。

❖ 時間を止める仕事、まだ撮りたいものたち

私が写真を好きなのは、時間を止められるからだと思います。子どもの頃に好きだった昆虫採集も、美しいものを集めて残すという意味では、写真とよく似ています。

仏像にひかれるのも、歴史が好きだからというより、化石を好きになる感覚に近いのかもしれません。仏像には、化石と同じように、長い時間そのものがとじ込められているように感じるのです。

奈良には7年間住み、毎朝、夜明けとともに東大寺へ通いました。その時期に撮影した写真は『天平の楽園』という写真集になり、東大寺本坊で展覧会も開かせていただきました。

奈良には、まだ撮りたい場所がたくさんあります。これからも奈良に通い、その時間を写真に残していきたいと思っています。

撮影:タナベコウキ

三好和義( みよし かずよし )

写真家。1958年徳島市生まれ。「楽園」をテーマに世界各地で撮影。近年は日本の風景に心の「楽園」を見いだす。仏像から世界遺産まで幅広く撮影。近著はB2版の大型写真集「法隆寺」(小学館)。1984年当時最年少で木村伊兵衛賞を受賞。2022~2025年の奈良大和路仏像ポスターを担当。

活動50周年を記念する 三好和義氏の最新写真集
「美しき日本の楽園」(小学館) 2026年12月8日発売予定
※書影は変更になる場合があります。