特別講話
「能楽の源流「翁舞」や樟の巨樹を、未来へ守り伝える」
奈良豆比古神社
宮司/辰己 眞一 氏
特別講話ダイジェストムービー(奈良豆比古神社)

- ─奈良豆比古神社は大変古いお社ですね。
- 宝亀2年(771)、光仁天皇により創建されました。三神殿あり、中央に産土(うぶすな)の神である平城津彦神(ならづひこじん)、向かって右の北側に光仁天皇のお父さまである施基(しき)親王、左の南側にお兄さまである春日王をお祀りしています。
この春日王が療養をしていたとき、春日王の息子の浄人王(きよひとおう)と安貴王(あきおう)が舞を奉納し病気平癒を祈願しました。それが能の源流といわれる「翁舞(おきなまい)」の始まりです。
『奈良坊目拙解(ぼうもくせつかい)』では「浄人王は散楽、俳優(わざおぎ※1)を好まれ、この芸をもって父王の病気の平癒を祈願されたところ神霊によって病気は全快した。世にいう申学(さるがく)・能楽・翁三番叟(さんばそう)でこの面は浄人王からはじまった」と当社の縁起が引かれています。
(※1)現代の「俳優」は一般的に役者を指すが、ここでは日本の古典芸能、特に雅楽、伎楽において歌や舞そのもの、またはその演者を指す言葉。
- ─「翁舞」は地元の皆さんで伝承して来られたと伺いました。
- 配役など役割分担をして毎年10月8日の宵宮祭で三人の翁が登場する舞を奉納しています。
平成12年(2000)には国の重要無形民俗文化財に指定されました。地元の「翁講(おきなこう)」で伝承してきましたが、少子高齢化が進んだ現在、「翁舞保存会」として様々な方にお力添えを願って、なんとしても継承せねばと努めています。「翁舞」で用いる面を含め、当社には20の面が伝わっていまして、普段は奈良国立博物館にお預けしており、「翁舞」を奉納するときは、太夫・脇二面・三番叟の四面を使用します。また「翁舞」では使いませんが、「ベシ見」というお面には「応永二十年(※2)二月、千草左衛門大夫(ちぐささえもんだゆう)作」の銘があり、国の重要文化財となっています。千草左衛門大夫は当時の日本能面師のなかで五指に入ると言われた人でした。
(※2)1413年
- ─もう一つのシンボル的存在が樟(くす)でしょうか。
- 春日王が隠居されたことが「大木繁る平城山(ならやま)の一社に隠居さる」という文言で伝わっています。当社ができて1254年目ですが当時すでに大木だったということなので、樹齢は1500~1600年の樟になるかもしれません。奈良県の天然記念物第一号です。最近、木の周辺を整備しまして、樟のそばに降りられるようになりました。町中からすぐの場所に、これだけ巨大なご神木があるというのも貴重なこと。ぜひ多くの方々に知ってもらい、お詣りしていただけたら、大変うれしく思います。

プロフィール
奈良豆比古神社/宮司 辰己 眞一(たつみしんいち) 氏
1949年生まれ。翁舞の演者を務め、2019年から奈良豆比古神社宮司として奉職。「地域の方々、崇敬者の皆さんにとって心の拠り所、気持ちの休まる場所をご提供していきたい」。
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