祈りの回廊

特別講話

「世に調和をもたらす風を祀る」 龍田大社
禰宜/稲熊 憲彦 氏

世に調和をもたらす風を祀る
世に調和をもたらす風を祀る
 龍田大社の創建につきましては、「第十代・崇神天皇(すじんてんのう)の時代に凶作や疫病が流行、その最中のご神託により龍田大社が造営されると、作物は豊作、疫病は退散した」と伝えられています。主祭神は天御柱大神(あめのみはしらのおおかみ)、国御柱大神(くにのみはしらのおおかみ)。男神と女神の、男女一対の風を司る神様で、風難排除、五穀豊穣、健康長寿、交通安全と、幅広くご守護くださいます。
 風は目に見ることはできませんが、あらゆるものの調和を図ってくれる存在です。例えば、日本は稲作とともに発展してきましたが、稲の受粉は風によって行われます。一方で、台風などで稲が倒されてしまうこともあります。大きく風に左右されるんですね。そこを治めるための神事が「風鎮大祭」。「過(す)ぎる」の「過」の字は「過(あやま)ち」とも読みます。風が強すぎると台風になり、大きな被害が生じます。過ぎた風で過ちが起きないよう祈願するのです。
 ご祈祷をしていると、あちらこちらから風が吹いてくるということが、よくあります。ご参拝の皆様が「良い風が吹いていますね」とおっしゃることもしばしばございます。そんな時は「神様が近くで聞いてくださっているのだなあ」と感じますし、ご参拝の皆様も「神様が快く出迎えてくださっている」と思ってくださったら良いですね。龍田大社が鎮座しますのは、金剛生駒の山並みの切れ目、風の通り道です。西からの良い風が吹き込み、またその良い風を平城の都に送り込む役割を担っていたのでしょう。
 最初に天御柱大神、国御柱大神のお話を致しましたが、もう一つ、対で知っていただきたいのが、ともに大和川沿いにある神社で北葛城郡河合町の廣瀬大社です。廣瀬大社は水の神を、当社は風の神を祀っています。ともに稲作に欠かせない神で、これもまた一対で調和を図っているのです。
 龍田大社がある一帯は紅葉の名所が多いですが、実は境内で龍田大社ならではの紅葉狩りを楽しんでいただけるのはご存知でしょうか。境内の落ち葉の中に、まれに「八重の楓」が混じっているんですよ。文字通り葉先が八つになった楓の葉っぱで、龍田大社のご神紋になっています。ぜひ足元に気を付けて探してみてください。

プロフィール

龍田大社/禰宜 稲熊 憲彦(いなぐまのりひこ)氏

龍田大社 禰宜。
1983年生まれ。奈良県出身。
2006年に皇學館大学を卒業し龍田大社へ奉職。
2014年から現職を勤める。

特別講話Special Interview