祈りの回廊

特別講話

「貴重な森や神楽を通し、 地域の歴史を伝える」 村屋坐弥冨都比売神社
宮司/守屋 裕史 氏

ダイジェストムービー

─ ゆったりした境内で、立派な木に囲まれていますね。
─ ゆったりした境内で、立派な木に囲まれていますね。
イチイガシが群生する照葉樹林の樹そう( ※1)です。奈良盆地唯一の森で、「村屋坐弥冨都比売神社(むらやにいますみふつひめじんじゃ)の社そう(※2)」として県の天然記念物に指定され、田原本町の町木ともなっております。当社の周辺は戦国時代の戦火で焼失しましたが、それ以前の神社の敷地は、現在よりもっと広かったようです。
─ 神社の歴史はさらに時代を遡るかと存じます。
古くは、壬申の乱で大海人皇子軍が当時の中ツ道を行く道中で村屋神から神託を受けたと『日本書紀』に記されています。
壬申の乱のときのことで、古代の主要道上にある村屋の地は戦での重要な拠点と目されたようです。
 御祭神は、三穂津姫(みほつひめ)と大物主(おおものぬし)という夫婦神。縁結びや家内安全、商売繁盛を願ってお参りいただいています。当社の主祭神が、大神神社のご祭神である大物主の妃神の三穂津姫であることから、大神神社の別宮ともされていますので、ぜひ両方お参りください。
─ ご朱印をきっかけとしたご参拝者が近年、大幅に増えたとも伺っています。
ありがたいことに遠方からもお越しいただくようになりました。月替わりの御朱印を求めて毎月一日にお参りくださる方や、新型コロナウイルスのこともあってホームページ経由でお申込みくださるケースもあります。先ほど話に出ました『日本書紀』の記述から「壬申の乱古戦場」と書いたご朱印もございます。
もう一つ、当社独自の10種類の神楽「代々神楽(だいだいかぐら)」(※3)に注目して訪ねてくださる方も増えてきたように感じます。奈良県中部地区に残る神楽舞いのほとんどは当社から伝わったともされています。古代の田原本町は交通の要衝として発達し、農業などで栄えたのにつれ、芸能文化も盛んになっていったのでしょう。こうした地域の歴史風土を紐解く名残りが「代々神楽」です。今後も地域の皆さんのご協力を得て、地元の子どもたちに伝え、「代々神楽」の奉納を続けていきたいですね。

(※1) 自生した樹木が密集して生えている地。
(※2) 神社の森のこと。
(※3) 村屋坐弥冨都比売神社に代々伝わる「平神楽(ひらかぐら)」「三々九度(さんさんくど)」など全10種の独自の神楽。秋季例大祭において奉納され、一般参拝者も拝観できます。

プロフィール

村屋坐弥冨都比売神社/宮司 守屋 裕史(もりやひろふみ)氏

村屋坐弥冨都比売神社に生まれ育ち、2021年から同社67代目宮司兼グラフィックデザイナー

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