特別講話33祈りの回廊 2020年秋冬版
「学び知って、皆で未来を切り拓く」
東大寺
別当/狭川 普文 師

- 学び知って、皆で未来を切り拓く
- 聖武(しょうむ)天皇が動植すべての繁栄を願い人々とともに建てた「みんなのお寺」が東大寺です。「自分には権力も財もあるが、それだけで造るのはいけない。皆に声をかけ力を合わせよう」との想いがあってのことでした。
大仏開眼の翌年、聖武天皇の招きで、遠く唐から鑑真(がんじん)和上が来日します。戒壇(かいだん)を設け、戒律を日本に伝えた鑑真和上の存在がなければ、日本は現在とは違う国になっただろうと思われます。思想、政治、教育、建築、医療、音楽、舞踊など、あらゆることを諸外国に学び、日本的にカスタマイズしていったのが奈良時代でした。
新型コロナウイルス感染症の流行という事態に直面する我々はどうでしょう。フェイクニュースに踊らされたり、差別的な言葉を投げつける人がいます。情報が溢れすぎて、本質がどこにあるのかわかりにくくなっているのかもしれません。正しさを見失わないように、根気強く学び、知性を得るのが大切です。そしてルーツをたどることですね。物事の見え方は知ることで変わりますよね。
東大寺では、今できること、やるべきことを進めています。正午の祈り(※1)の呼びかけや、疫病退散を祈願する法要を生中継したのもその一環です。これまでご縁がなかった方々にも仏教を知っていただきたい、出歩くのが難しい方々にもご参拝していただく機会にしたいと思い実行しました。さまざまな宗派の方などが、声を寄せ、ともに行動してくださっていることを非常にうれしく感謝しています。
また東大寺ミュージアムでは、耐震工事に入った戒壇堂の国宝・四天王像、二体の武装天部形が背中合わせとなった珍しいお姿の勝敵毘沙門天像(しょうじゃくびしゃもんてんぞう)、疫病を抑える青面金剛(しょうめんこんごう)像の最古の作例といわれるお像を拝観いただけます(※2)。
今、我々は皆さんを安心・安全に受け入れるための体制を整えつつ、事に当たっています。専門家の協力を仰いで感染症について知り、予防策を講じて道筋を決める。祈りの場の要となる部分に注力し、未来へ向けた新しい様式を切り拓(ひら)いていかねばなりません。天平期に、飢饉、旱魃(かんばつ)などの自然災害、疫病などの社会不安を鎮めるため、多くの方のご尽力で建立された寺としての役割を果たして参りたいと思います。
(※1) 新型コロナウイルス感染症の終息祈願。宗教・宗派を越え各地に祈りの輪が広がった
(※2) 公開中~会期未定。戒壇堂の四天王像は令和五年頃までの予定

プロフィール
東大寺/別当 狭川 普文(さがわふもん)師1951年奈良県生まれ。
1975年龍谷大学大学院仏教学専攻(修士課程)修了。
2019年5月1日より第223世別当。
東大寺
〒630-8587 奈良市雑司町406-1
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