特別講話
「奈良は歩き景色を眺め思いを馳せて祈る場所」
八咫烏神社
宮司/栗野 義典 氏
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- ─ 神社のご由緒について教えてください
- はい。日本の正史『続日本紀』に「慶雲二年九月丙戌八咫烏社于大倭國宇太郡祭之也」(訳:八咫烏の神社を、大倭国宇太郡に置き、これを祭らせた)とあり、当社でもこれを創始とお伝えしています。西暦だと705年ですから1300年以上の歴史があることになります。ただ途中詳しいことがわからない期間もあるのですが。ご祭神は神武東遷の折に一行の前に現れ導いたとされる八咫烏大神(やたがらすのおおかみ)をお祀りしています。またの名を建角身命(たけつのみのみこと)。建角身命は「新撰姓氏録(しんせんしょうじろく)」の伝承によれば神武天皇をお導きする際に「八咫烏に変身した」とされています。
- ─ それが三本足のカラスですか?
- 実は『古事記』や『日本書紀』では、お姿についての明確な記述はないんです。他の神様については具体的な描写もあるのですが、ヤタガラスに関しては「大きなカラス」くらいですね。いつから三本足のカラスとされるようになったのかはわかっていません。個人的には熊野信仰を広めた御師と呼ばれる人々の存在や、中国神話に出てくる三本足のカラスである三足烏(さんそくう)の影響を考えています。ヤタガラスと三足烏ともに太陽に関わりのあるカラスなので、どこかで混同された可能性はあるのかなと。とは言え、三本足のカラスとしてヤタガラスを知り、当社にお参りしてくださる方々もおいでで、足の本数に関わらずご祭神であり、ご神徳に変わりはなく、より良い方向へ導いてくださる神様だとお話させていただいています。
- ─ このあたりは倭姫ゆかりの地でもありますね
- 天照大神を祀る場所を探す旅をされた倭姫の県内での足跡は、桜井、宇陀、御杖(みつえ)に点在していますね。以前、会社員としての仕事で「元伊勢(※1)」の伝承地である桧原(ひばら)神社からスタートし、ゴールの伊勢神宮内宮まで、足掛け10年かけて歩きました。道を行けば灯籠があり、道中で亡くなった方の供養塔があり。そうしたものに触れていくなかで、生活や歴史、文化などへの興味が深まり、のちに神職に就く縁も生まれました。現在は二足の草鞋を履いています。ご参拝くださる皆さまには、道を歩き、昔と変わらない場所に足を止め風景を眺め、古(いにしえ)に思いを馳せていただけたらと思います。当社の境内からは、ぜひ伊那佐山(いなさやま)を仰いでみてください。記紀(※2)に登場する神武東遷ゆかりの山なのです。
(※1)伊勢神宮が現在地に鎮座する以前に一時的に祀られた場所
(※2)『古事記』と『日本書紀』
プロフィール
八咫烏神社/宮司 栗野 義典(くりのよしのり)氏群馬県出身。平成10年に桜井市にある印刷会社に就職、フリーペーパーの創刊に携わる。会社員として働きながら平成18年より八咫烏神社宮司を務める。
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