特別講話
「私たち一人ひとりが お地蔵様となり良き世を」
矢田寺(金剛山寺)
山主/前川 真澄 師
ダイジェストムービー
- ─ 今年は久しぶりに矢田寺のあじさいを拝見できました。
- 新型コロナウイルス感染症が発生した年以来でしたね。あの年に開花シーズン直前にして花を切ったのは、絶対に感染を広めてはならないという決断でした。
当寺のあじさい園は栽培を始めて60年、皆様にご覧いただけるようになって50年です。このあじさいは地蔵尊へのお供えでもあります。お地蔵様は「抜苦与楽(ばっくよらく)」と言って人の苦しみの身代わりとなり楽を与えてくださる仏様。あじさいが雨に打たれながらもきれいに咲く姿は、その行いに重なります。あじさいの花はお地蔵様が手に持つ宝珠とよく似た形で、花びらが色を変える様子は諸行無常を表すようでもあって、お地蔵様とあじさいの結びつきを感じております。
お地蔵様は人間と同じ姿形をした親しみのある仏様。私には感染症や災害復興の場で従事する皆さんの姿が、お地蔵様に見えます。電車の座席を譲っておられる方も「この方がお地蔵様なのではないか」と思います。私たち一人ひとりがお地蔵様のようになれたら、世の中はきっと良くなります。矢田寺には一体の中にさらに千体おいでになるお地蔵様など数えきれない地蔵尊がおられます。また奈良県の十ヶ寺の地蔵菩薩を巡拝する「大和地蔵十福霊場会」の機会もありますので、ぜひご参拝ください。
- ─ 2022年は壬申の乱から1350年となりますが──。
- 寺伝では「大海人皇子が吉野に隠棲(いんせい)されたころ、下ツ道を通り稗田(ひえだ)(※1)の辺りに来られたとき、西の山(※2)の中腹に不思議な光 ─ 当寺では「舎利光(しゃりこう)」と呼ばれます ─ をご覧になった。早速山に登り、その地で戦勝祈願をされた。そして壬申の乱が起こり、勝利した大海人皇子は天武天皇として即位。戦勝祈願の地に智通(ちつう)(※3)に命じて十一面観音と吉祥天女を祀る金剛山寺(※4)を建立された」と伝わります。
ちなみに「西の山」である周囲の丘陵は近年まで矢田松と呼ばれる松の木が茂り、本堂の柱は、その松の大木が使われています。山は今は松枯れしてしまいましたが、本堂にご参拝の際は柱もご覧ください。また桜やツツジ、沙羅、紅葉など、四季それぞれの風景も楽しんでいただけたらと思います。
(※1) 現在の大和郡山市稗田町
(※2) 矢田丘陵の矢田山
(※3) 矢田寺を開いた飛鳥時代の僧
(※4) 矢田寺(通称)の正式名称
プロフィール
矢田寺(金剛山寺)/ 山主 前川 真澄(まえかわしんちょう)師矢田山金剛山寺山主。1943年生まれ。
2015年から現職を務める。
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