祈りの回廊

特別講話

「聖徳太子の「和」の心を明日香村から伝え続ける」 橘寺
住職/髙内 良輯 師

―橘寺と聖徳太子の関わりについてお教えください。
―橘寺と聖徳太子の関わりについてお教えください。
聖徳太子は、祖父である欽明天皇の別宮「橘の宮」で、その皇子であり後の用明天皇を父、穴穂部間人皇女(あなほべのはしひとのひめみこ)を母として、572年にこの地でお生まれになりました。そして太子が35歳の時、推古天皇の仰せにより「勝鬘経(しょうまんぎょう)」(※1)を講じたところ、「大きな蓮の花びらが1メートルも降り積もり、南の山に千の仏頭が現れ、光明を放ち、太子の冠から日月星の光が輝く」といった不思議なことが起きました。奇瑞(きずい)に驚かれた天皇の命で、太子は橘の宮の宮殿を改築して、寺へと建て替えます。この寺が太子建立七ヶ寺の一つとされ、太子誕生所としての橘寺の始まりと伝えられています。橘寺のご本尊様は「勝鬘経」を講讃された聖徳太子35歳のお姿です。このご本尊を祀る太子堂の横には、聖徳太子の愛馬「黒駒」の像がございます。
―2022年は生誕1450年に当たられますね。
新型コロナウイルス感染症の流行という思いがけない世の中で、昨年1400年ご遠忌を、今年ご生誕1450年を迎えました。何故このタイミングなのかと自問した時、何か意味があるのではないかと思います。私たちはコロナ禍で様々な我慢や辛抱をしてきました。けれどこれまで見えていなかったことに気づけたり、当たり前に思っていたことが実は当たり前ではなく幸せだったのだと感じることはなかったでしょうか。これから良い未来へ向かっていく為に、今、各々が今後の生き方を真剣に考えるときであるのだと思います。
―ご生誕の記念事業を進めておいでと伺いました。
はい、お太子様は如意輪観音様の化身ともいわれておりまして、如意輪観音様を祀る観音堂の修復に着手し、今春の完成を目指しています。また来る令和4年10月16日には、観音堂修復法要、秋季報恩聖徳太子会式、そして聖徳太子ご生誕1450年誕生祭の開催を予定しています。こうした機会を通して、十七条憲法の第一条である「和を以て貴しとなす」という太子の精神をお伝えし続けたいと思います。日本人の心のふるさと、日本仏教最初の地、そして、聖徳太子ご生誕の地であるここ明日香で、宗派を超え、皆様とともに祈りを捧げることができましたら望外の喜びです。

(※1)「勝鬘経」は勝鬘夫人が説き、釈迦に認められたという経典の一つ。聖徳太子はその注釈書『勝鬘経義疏』を記したとされる

プロフィール

橘寺/住職 髙内 良輯(たかうちりょうしゅう)師

橘寺住職。1959年生まれ。
2009年から現職を務める。

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