祈りの回廊

特別講話

「憂いを手ばなし、見つめ直そう」 墨坂神社
宮司/太田 静代 氏

憂いを手ばなし、見つめ直そう
憂いを手ばなし、見つめ直そう
 墨坂(すみさか)神社は第十代・崇神(すじん)天皇が疫病を鎮めるため創建されました。墨坂大神と総称される六神を主祭神とする「日本最古の健康と安全の神」の社で、『古事記』に「崇神天皇九年、国に疫病が蔓延した。ある夜、神人が天皇の夢の中に立ち、『赤盾八枚(あかたてやひら)・赤矛八竿(あかほこやさお)をもって墨坂の神を祀り、黒盾八枚・黒矛八竿をもって大坂の神を祀れ』と告げた。その教えに従うと疫病は平癒した」と記されています。
 そこで、いつまでという期限は未定ですが、当社に伝わる「赤盾八枚・赤矛八竿」を拝殿に掲げております。この盾と矛は折々に修繕しながら長らく仕舞い込んであったもの。まさかこのような出番があるとは思いませんでした。大坂の神とあるのは、香芝市の大坂山口神社(逢坂)のことです。古代大和の交通の要衝(※3)にあった当社と大坂山口神社(逢坂)に疫病の侵入などを防ぐ役割が与えられたのかと思います。
 新型コロナウイルス感染症という疫病に向き合うことになって何かできることはないかと考えたとき、やはりそれは「祈る」ことだと思い至り、「新型コロナウイルス平癒祈願祭」を執り行いました。とは言え、人が密集する状況にはできませんので、関係者の皆さんとご相談して、祭祀は少人数で行い、その様子を地元のケーブルテレビで後日放送していただきました。ご覧くださった方からお声をかけていただき、心強くありがたいことでした。
 それにしても、このような疫病流行の時代を体験することや、その影響の大きさに驚くばかりです。さまざまな事情で辛く悲しい思いをされた方がおいででしょう。それでも、どうか心を開いておいてほしいと思います。以前のようにたくさん話すことはできないかも知れません。けれど、玄関先まで出る、そして顔を合わせた人に「おはよう」「元気にしている?」と声を掛けてみてください。「話す」ということは、自分の中に持っている憂いや執着を「手ばなす」ということ。一種の「祓(はら)い」です。そうして手ばなした心の空間に、新鮮で良いものを受け入れてください。
 私たちのこれからの生活は変わらざるを得ません。家族や友人との時間、地域や生活との関わりを見つめ直す良い機会にできるように、ご一緒に考えてまいりましょう。

(※3) 墨坂神社は初瀬街道と伊勢本街道が交わる場所、大坂山口神社は河内と大和を結ぶ古代大坂越えの場所にあり、それぞれ重要な峠を守護する社だった
プロフィール

プロフィール

墨坂神社/宮司 太田 静代(おおたしずよ)氏

1966年、奈良県生まれ。
2010年より墨坂神社宮司を務める。
2021(令和3)年に20年に一度の式年遷宮を迎えるため造営事業に当たる。

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