特別講話
「聖徳太子らも手を合わせた日本最初の寺院」
飛鳥寺
住職/植島 寶照
- —飛鳥寺は日本最初の本格的な寺院といわれています
- 植島住職
当寺は仏教公伝から間もない6世紀末に、古代豪族の蘇我馬子(そがのうまこ)によって創建されました。それ以前から小規模な仏殿などはあったといわれますが、本格的な伽藍を備えた寺としては、当寺が日本最初とされます。
現在は江戸時代末期に再建された本堂を中心とするこじんまりとした寺ですが、創建当時は五重塔(三重塔とも)の東・西・北に3つの金堂が立ち、それらを中門から延びる回廊が囲む、巨大な寺院でした。
飛鳥大仏(あすかだいぶつ)の名で親しまれる本尊の釈迦如来坐像(重文)は7世紀初頭に造立されたもので、こちらも現存する日本最古の仏像といわれています。伽藍は、鎌倉初期の落雷による大火などで失われましたが、この像は飛鳥時代から動くことなく、今も造立時の台座の上に座っておられます。少し前までは「後世の補修がはなはだしく、造立時の部位は目元や右手の指の一部などに限られる」とされておりましたが、近年の調査の結果、お顔や右手の大部分は造立当時からのものと考えられております。
- —御本尊のお顔が造立時のままとわかったのは、ごく最近なのですね
- 植島住職
この調査が始まったのは、平成24年からです。実は個人的には、信仰の対象である御本尊を科学的に調査することに、違和感もあったんです。御本尊は飛鳥時代から変わらずここにおられる、それがすべてだと。でも、調査を申し出てこられた早稲田大学の大橋一章(おおはしかつあき)先生(当時)はとても熱心な方で、結局、拝観時間外ならということで、調査していただくことになりました。その結果、創建時とされる部分と後補とされる部分の成分にほとんど差がないことが分かり、さらに平成27〜28年にかけての大阪大学藤岡穣(ふじおかゆたか)先生たちの調査で、お顔や右手の大部分が創建時のものと見られると発表されました。体部は、火災で溶けた銅を再度使い、補修したと考えられています。
このことは新聞などでも大きく報道され、たくさんの方に関心を持っていただくこととなりました。聖徳太子や推古天皇など、歴史の教科書に登場する方々が、今、私たちの目の前にあるこの大仏さまのお顔を見て、手を合わされた。そう思うと、本で読むだけだった歴史に、現実的な実感がわいてきます。
- —歴史を実感できるというのは、大変興味深いことですね
- 植島住職
私は、それができることが、飛鳥の魅力だと思っています。当寺の西には、蘇我入鹿(そがのいるか)の首塚とされる五輪塔が立ち、その向こうには、蘇我氏が邸宅を構えたという甘樫丘(あまかしのおか)が見えます。南にある飛鳥宮跡は、中大兄皇子(後の天智天皇)や中臣鎌足らが蘇我入鹿を討った「乙巳(いっし)の変(へん)」の舞台です。実際に見て回ると、とても狭い範囲に遺跡が集中していることに驚かれると思います。
飛鳥時代は今から1400 年以上も昔のことですから、はっきりしないことも多い。そこには「私はこう考える」という、独自の解釈が入り込む余地があります。私はそこに、古代史の面白さがあるんだと思います。
飛鳥には豊かな自然と、昔ながらの田園風景が広がっています。何気ない風景も、聖徳太子が眺めた景色だと思えば、それだけで特別なものになります。飛鳥に来られる皆さんには、ぜひ想像の翼を広げ、歴史の舞台めぐりを楽しんでいただきたいと思います。
プロフィール
飛鳥寺/住職 植島 寶照(うえじまほうしょう)1975年、奈良県大和高田市に生まれる。
2004年に飛鳥寺に入寺。
2013年より飛鳥寺住職
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