特別講話
「『記紀』に記された、日本建国の地に鎮まる」
橿原神宮
宮司/久保田 昌孝
- —橿原神宮があるこの場所は、神武天皇が即位された場所と伝わっています
- 久保田宮司
『日本書紀』などによれば、大和三山のひとつ、畝傍山(うねびやま)の麓は、第一代神武天皇が即位された、日本国始まりの地です。神武天皇は九州高千穂宮(たかちほのみや)(現在の宮崎県)から東に向かい、想像を絶する苦難を乗り越えてこの地に至り、橿原宮(かしはらのみや)で即位されました。それが紀元(皇紀)元年、今からおよそ2680 年前のことです。橿原神宮は神武天皇と皇后の媛蹈韛五十鈴媛命(ひめたたらいすずひめのみこと)をお祀りするため、明治23年(1890)に創建されました。
創建にあたっては、京都御所から内侍所(ないしどころ)(賢所(かしこどころ))と神嘉殿(しんかでん)が移築され、本殿・拝殿となりました。その後、昭和15年(1940)に紀元2600 年を奉祝して大幅に拡張され、外拝殿の奥に内拝殿、幣殿、本殿(重文)が並ぶ、現在の社殿が整えられました。また、境内南側に広がる深田池(ふかだいけ)には対岸まで遊歩道が整備されており、市民の憩いの場となっています。境内東側には橿原森林遊苑が広がっていて、北参道途中には畝傍山の登山口もあり、ハイカーの方も多く来られます。
- —特別な場所でありながら、開かれた神社でもあるのですね
- 久保田宮司
当宮がこれほど開かれた場所となったのは、実は戦後からです。戦前までは内務省の管轄で、個人的なことよりも、国家の安寧などを祈願する場所とされてきました。それが、戦後は国の管理を外れることとなり、当時の神職らは神宮の護持のため、皆さんにお参りいただくにはどうすればいいかと、随分工夫を重ねたようです。深田池にボートを浮かべたり、森林遊苑でお子さん向けのイベントを開いたりもしてきました。今の開かれた雰囲気は、その結果だと思います。
今の境内を見渡しますと、特に深田池一帯は散策を楽しまれる方も多く、休日ともなると、小さなお子さんが遊ぶ声も聞こえてにぎやかです。私は、当宮に来られる理由が、「池の鯉が見たいから」でもいいと思うのです。そうしてご家族で楽しんでいただいて、せっかく来たからと、帰る前に社殿で手を合わせていただく。そういう経験が、やがて自然と、神様を敬う信仰心に結び付いていくのではないでしょうか。
- —元号が令和に改まり、参拝者は増えているとお聞きしています
- 久保田宮司
確かに2018年の秋ごろから、例年以上の方がお参りに来られていると感じています。改元や御代替わりを機会に、改めて日本国の成り立ちに思いを致す方が増えているということでしょう。
もともと神武天皇らが居られた九州高千穂は、地上を高天原(たかまがはら)同様平和で豊かな国にしたいと願われた天照大神(あまてらすおおみかみ)が、天孫の瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)を使わされた場所です。神武天皇が高千穂から旅立つ決意をなされたのは、瓊瓊杵尊によってもたらされた恩恵を、あまねく国中に広めたいと願われたからでしょう。そう考えれば、今の私たちの国は、天照大神が治められる、高天原の延長にあるといえると思います。
当宮にはいくつか参道がございますが、初めてお越しの際は、ぜひ表参道からお参りください。一の鳥居から長い参道を歩き切った先が、南神門(みなみしんもん)広場。左手の深田池には、お子さんたちが遊ぶ姿も見えるでしょう。手水舎で手と口を清め、南神門をくぐると、外拝殿前広場です。社殿越しには、畝傍山も見えます。これほどの広大な境内が、豊かな緑の中に広がっている。建国という偉業を成し遂げられた神武天皇と媛蹈韛五十鈴媛命をお祀りする社として、ふさわしいものだと思っています。
プロフィール
橿原神宮/宮司 久保田 昌孝(くぼたまさたか)東京都生まれ。
國學院大學卒業後、1974 年より橿原神宮に奉職。
2014年より橿原神宮宮司
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