特別講話
「「観光から信仰へ」をかかげる文殊菩薩の霊場」
安倍文殊院
執事長/東 快應
- 美しい文殊菩薩で有名なお寺ですが、 まずは歴史について教えてください
- 当寺の歴史は、大化元年(645)に安倍倉梯麻呂(あべのくらはしまろ)が建立した安倍寺に始まります。倉梯麻呂は乙巳(いっし)の変で中大兄(なかのおおえ)皇子(後の天智天皇)らとともに蘇我入鹿(そがのいるか)を討ち、孝徳(こうとく)天皇即位後は左大臣として大化改新を推進した人物です。安倍寺はその氏寺として、一族の本貫地(ほんがんち)である当地に、塔と金堂が東西に並ぶ法隆寺式伽藍配置(ほうりゅうじしきがらんはいち)の大寺として創建されました。
中心となる堂塔は現在の境内地より300mほど南西に創建されましたが、平安時代に多武峰(とうのみね)衆徒との争いで焼失し、唯一残った現在の文殊院に移設統合されました。本尊の文殊菩薩騎獅像〈国宝〉は鎌倉時代になって、仏師快慶(かいけい)により造立されたものです。
「安倍氏」といえば、奈良時代に遣唐留学生として唐にわたった安倍仲麻呂(なかまろ)、平安時代に活躍した陰陽師の安倍晴明(せいめい)らが有名ですが、どちらも当地を本貫地とする安倍の一族です。境内には、仲麻呂公像などを祀る金閣浮御堂(仲麻呂堂)、幼少期の晴明が天文観測をしたと伝わる展望台などがあります。
- ジャンボ干支花絵や桜、コスモス迷路なども知られています
- ジャンボ干支花絵は、毎年新春を迎えるにあたり、その年の干支を約8000株のパンジーで表す花絵です。20m×25mの広場に描きますので、全景は、安倍晴明ゆかりの展望台に上がって見ていただいております。期間は11月中旬から4月下旬までで、3月下旬には境内を埋め尽くす桜との共演もお楽しみいただけます。また花絵の広場は、秋にはコスモス迷路となり、楽しんでいただいております。
また、当寺は祈祷寺として、あらゆる方がいつでも手を合わせ、心の安らぎを得られる場所でありたいとの歴代住職の考えのもと、本堂に上がられる方からは拝観料を頂戴し、お抹茶の接待と、20分間隔で法話を行っております。これは、せっかく拝観いただく以上は、少しでも信仰に触れる機会を持っていただきたいとの思いからです。私どもは大和十三仏霊場、大和七福神八宝霊場などいくつかの霊場会に参加させていただいていますが、そのひとつ、奈良大和四寺巡礼でも、「観光から信仰へ」がテーマになっております。
- 「観光から信仰へ」について、もう少し聞かせてください
- 最近はお寺を、美術館や公園と同列に捉えておられる方が増えているように感じます。もちろん楽しみとしての参拝を否定するつもりはありませんが、寺は信仰のよりどころでもあります。拝観いただく時も、少し宗教的な意味を加えることで、お寺巡りがより一層意義深いものにもなると思うのです。
例えば奈良大和四寺巡礼では、四寺全てで御朱印を受けていただく方に、無料で笈摺(おいずる)(巡礼衣)を授与しております。清浄な白の笈摺は、“身も心も白にして仏のご加護を頂戴する”という意味の、巡礼の正式な衣装です。袖を通してお参りいただくだけで、自然と“観覧”と“拝観”の違いを感じていただけると思います。
当寺には、縁結びのご利益で有名な白山堂(はくさんどう)(重文)、国宝と同格の特別史跡の指定を受け、願掛(がんかけ)不動が祀られている西古墳など、たくさんの見どころがございます。お越しいただく際は、ぜひ信仰の心も持っていただき、お参りを心の安寧を得る機会としていただければと思います。
プロフィール
安倍文殊院/執事長 東 快應(あずま かいおう)1944 年、福井県福井市に生まれる。
企業勤務、商事会社設立などを経て、1975年、養父の他界を機に安倍文殊院に入寺。
現在安倍文殊院執事長、大和十三仏霊場会事務局長、大和七福神八宝霊場会事務局長などを兼任
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