特別講話
「光明皇后の慈悲の心を受け継ぐ尼寺」
法華寺
門主/樋口 教香
- 光明皇后ゆかりの尼寺ということですが、まずは歴史について教えてください。
- 樋口門主
当寺の歴史は奈良時代に、光明皇后が自らの皇后宮を寺に改め、法華滅罪之寺(ほっけめつざいのてら)と称したことに始まります。聖武天皇勅願の東大寺が総国分寺だったのに対し、皇后ゆかりの法華寺は総国分尼寺(にじ)とされました。当時の寺域は今の数十倍にも及んだといいます。
平安遷都後は次第に衰退し、平安末期の南都焼討でも被害を受けますが、鎌倉初期に重源(ちょうげん)上人に、中期には叡尊(えいそん)上人によって復興され、さらに桃山時代には豊臣秀頼公、淀殿の寄進を受け、ほぼ現在の寺観となりました。またその頃、後水尾(ごみずのお)天皇の皇女・高慶(こうけい)尼が入寺され、以降皇室・公家の姫君が住職をお務めになる尼門跡寺院となりました。
- 先代の門主様も名門華族のご出身とお聞きしています。
- 樋口門主
私どもは先代を御前(ごぜん)様とお呼びしておりますが、明治天皇の后・昭憲(しょうけん)皇后は、御前様の大叔母に当たられます。当寺には昭和11年、15歳の時に入られました。当初は人前にお出ましになることも少なく、昭和50年代までは、当寺の華道法華寺御流の免状式も、御簾(みす)越しに行っていたそうです。
でも時代は変わり、当寺は観光のお寺ともなり、多くの方にお越しいただくようになりました。その変革の先頭に立たれたのも、御前様でした。境内には2つの庭がありますが、このうち本堂東の華楽園(からくえん)を作ったのは御前様です。四季折々に美しい庭ですが、法華寺蓮(※)の咲く夏は特に見応えがあります。開花状況などは、ホームページでもお知らせしております。
伝統を変えるのは、大変なことです。でも当寺を開かれた光明皇后も、それまでの皇后がなされなかったことに取り組まれました。1000人の庶民に沐浴(もくよく)の功徳(くどく)を積まれたとの話もあり、境内には江戸時代再建の浴室(からふろ)もあります。このような、光明皇后の慈悲の心を伝える寺として、変えること、守っていくことの見極めが大切だと思っています。
※花は白地の花弁に紅の縁取りが特徴。見頃は6月下旬~7月上旬。金輪蓮(こんりんれん)とも。
- 光明皇后のお心も法灯として伝えているのですね。
- 樋口門主
私は光明皇后は、日本の社会福祉の第一人者だと思っています。世界にはナイチンゲールやマザーテレサらがおられますが、日本では1300年前に光明皇后がおられた。これは大変重要なことです。
皇后は皇族のご出身ではありません。先程の沐浴の発願(ほつがん)も、庶民の暮らしをご存じだったからこそのものでしょう。当時沐浴は、体を清潔にして病を治すのに有効でした。「悲田院(ひでんいん)」「施薬院(せやくいん)」は有名ですが、浴室も同様のものだったと思います。
本尊には、蓮池を渡る光明皇后のお姿を写したと伝わる十一面観音をお祀りしております。秘仏で開扉時期は限られていますが、それ以外も白檀(びゃくだん)のご分身像を拝観いただけます。また、光明皇后が考案された「お守り犬」も、今も当時と同じ製法で、尼僧が手作りしております。お参りいただく際は、ぜひ光明皇后の遺徳をお感じいただき、ご縁を結んでいただければと存じます。
プロフィール
法華寺/門主 樋口 教香(ひぐち きょうこう)兵庫県生まれ。
40 歳のころ高野山で得度。
以来各地寺院を経て、平成12 年に法華寺に。
平成25 年、皇室・公家以外の出身としては初の法華寺門主に就任。
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