特別講話
「修験道の根本道場」
龍泉寺
住職/岡田 悦雄
- —役行者(えんのぎょうじゃ)が創建した修験道の道場ということですが、お寺の縁起について教えてください。
- 岡田住職
龍泉寺は修験道の聖地・大峯山の山頂にある、大峯山寺の護持院(ごじいん)の一つです。大峯山に入るルートはいくつかありますが、洞川から登る行者さんにとっては、当寺が最初の行場になります。
寺の歴史は、飛鳥時代までさかのぼります。大峯山で修行しておられた役行者が、山麓の洞川(どろがわ)に下りられた時、岩場の中からこんこんと水が湧き出る泉を発見された。そこに八大龍王をお祀りしたのが当寺の始まりです。以来、その泉を「龍の口」と呼び、今も境内には大峯山に向かう方が入山前に心身を清める、水行の場がございます。
また言い伝えによれば、平安時代の大峯山には大蛇が棲みつき、修行に来る行者が途絶えてしまったことがあるそうです。この大蛇を退治されたのが、修験道中興の祖とされる聖宝理源(しょうぼうりげん)大師です。龍泉寺もその時大師によって再興されており、以来、真言宗修験の根本道場の一つとなりました。
- —修験道はどのようにして始まったのでしょうか。
- 岡田住職
修験道を開かれたのは役行者ですが、おそらくそれ以前から、日本人は山に感謝をささげる気持ちを持っていたと思います。例えば、作物を育てるのに欠かせない水。それも元をたどれば、山に行きつきます。鳥や獣、きれいな空気も、山で生まれ、里に住む人は感謝しつつ、その恵みを享受していた。そこから、もっとはっきりと山への感謝を表そうと、直接、山にお供えを持って行くようになった。私はそれが、修験道の始まりだと思っています。
現在では、蛇口をひねれば当たり前に水が出ます。便利になりましたが、その分、山のありがたみを感じにくくなっているのかもしれません。ただ水道水であっても、その水は川に、さらにさかのぼれば山につながっています。今も昔と変わらず、私たちは山の恵みを受けているのです。その感謝をささげるのが、修験道です。そういう意味では、修験道は私たちの暮らしに、とても身近な宗教だと言えると思います。
- —修験道の基本的な考え方についても教えてください。
- 岡田住職
修験道は山中を歩き、心身を鍛える実践的な宗教です。マニュアルがあって、それに沿って各自が学ぶ、というものではありません。山の中は、とても不便な場所です。だからこそ、普段何気なく使っているものや、特に意識せずいただいている水や食料のありがたさに気づくのです。
石にも木にも、あらゆるものに魂がある。これは、修験道の基本的な考え方です。もちろん山の中に限った話ではなく、例えば当寺の本堂前には、なでると軽くなり、たたくと重くなるという不思議な「なで石」があります。子どもも、たたいた後はだっこさせてくれませんよね。心はなにも、人にだけあるものではない。なで石はそのことを、身をもって教えてくれているのだと思います。
洞川は美しい場所です。カエデやイチョウが多く、紅葉の時期も見事です。当寺に来られる方には、ぜひ門前を流れる山上川の水の清さも感じていただきたい。そしてぜひ、お山に向かって「おかげさまで、今日も水がきれいです」という、感謝の気持ちを抱いていただければと思います。
プロフィール
龍泉寺/住職 岡田 悦雄(おかだ えつお)1971年、龍泉寺に生まれる。
甲南大学理学部卒業後、会社員を経て、2000年に龍泉寺に帰山。
2002年、同寺住職に就任
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