特別講話
「仏教から見たおもてなしの心」
法相宗大本山 薬師寺
法相宗管長/山田法胤
- ―「ようこそお参り下さいました」。受付で声をかけられ境内へ入ると、その開放感に清々しい気分になります。僧侶の方が修学旅行生にお話をされているのを見ても、笑いがあり、親しみやすさを感じます。薬師寺には、訪れた人の心を明るくする気が満ちているようです。
- 山田管長 私どもは職員を含め、お参りや観光で来られた方に旅の疲れを癒すようなお声かけをし、目的地への道順から交通機関の運行時刻まで、すぐ答えられるよう準備しています。歴史について尋ねられても教えて差し上げられるように。
奈良は大変古い歴史を持つ、世界にない文化を有した地です。薬師寺で言えば1300年前に建てられた東塔や仏像があり、今も人々が拝んでいる。そんな地はほかにありません。県外、あるいは外国から来られる方に、日本の始まりの地である奈良の奥深さを知っていただきたい。そのためにも接遇を大切に考えています。
- ―山田管長は「接遇」という言葉を使われましたが、その姿勢は「おもてなし」に通じるように思えます。2020年の東京オリンピック開催が決まり、招致プレゼンテーションで使われた「おもてなし」という言葉が注目されましたが、仏教から見た「おもてなしの心」とは、どういったものなのでしょうか。
- 山田管長 「おもてなし」とは即ち「思いやり」です。漢字で表せば「仁」。人が二人、と書くでしょう。相手のことをまず考え、気持ちに寄り添うということです。修学旅行生への話にユーモアを挟むのも、固い話ばかりでは生徒さんは退屈だろうと思うからです。
最近の若い子は自分を前に出しがちですね。若い子だけではありません。ホテルやレストランの食材偽装問題も、お客様の立場に立って考えていれば起きなかったことでしょう。相手の立場に立つことから始める。本来それが、日本人の精神なのです。オリンピックで海外の方が大勢来られるでしょうが、日本の精神性の素晴らしさを知ってもらえる機会としたいものです。
- ―オリンピック開催の際には、東京だけでなく、「日本の始まりの地」である奈良への観光客も増えそうです。約110年ぶりに解体修理が進められている東塔の完成は2019年を目指しており、日本随一の壮美を誇った白鳳伽藍の再現が待たれます。
- 山田管長 本尊の薬師如来坐像の台座には、ギリシャの葡萄唐草文(ぶどうからくさもん)、ペルシャの蓮華文(れんげもん)、インドのヤクシャ像、中国の四方神が表されており、奈良がシルクロードの終着地であることの証だと言えましょう。また、東塔と西塔にはそれぞれ、お釈迦様の生涯を八つの場面で表した「釈迦八相」のうち、前半の四相と後半の四相に当たる像があります。焼失などで元の像ではありませんが、西塔に続き東塔のものも今、制作をお願いしており、ぜひご覧いただきたいと思います。
- ―お釈迦様の生涯から、今の私たちが学べることは何でしょうか。
- 山田管長 王族に生まれ、妻子まで持ちながら全てを捨てて苦行の道に入られたお釈迦様ですが、悟りに至られたのは苦行の末ではなく、執着を離れ、空になった時でした。これを私たちに当てはめてみると、モノに囲まれて便利な暮らしばかりしていると、苦労かけているね、大変だろうといった相手への思いやりは生まれてきません。逆に、苦しいばかりでは知恵が出てこない。極端にならず、物質に頼らず、自分で生きていくようにすればいいのです。
お釈迦様は左右の指でそれぞれ輪をつくっておられるでしょう。あれは、もつれた糸をほどいていらっしゃるのです。ほどけるさま、ほとけさま、ということです。
お釈迦様は人を見て説法されたといいます。富士山の登り口が複数あり、そのどこからでも頂上に行けるのと同じことで、教えに至る道筋は一つではないということです。仏教には様々な宗派がありますが、目指すものは同じ。一つにこだわらなくともよいのです。そういうことを塔で表現しているのです。
プロフィール
法相宗管長/薬師寺管主 山田 法胤(やまだ ほういん)1940年、岐阜県根尾村生まれ。56年に薬師寺に入山、橋本凝胤に師事。64年、龍谷大文学部仏教学科卒業、同年、厚生省慰霊団団員として、アッツ島ほか戦跡各地を巡拝。薬師寺執事、奈良喜光寺住職、薬師寺執事長、同副住職を経て2009年から管主。
特別講話Special Interview
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