特別講話
「日本人の祈りの原点」
大和一ノ宮三輪明神 大神神社
宮司/鈴木寛治
- ―日本最古の神社のひとつである大神神社の境内に入ると、理屈ではなく体が霊気を感じます。日本全国から多くの参拝者が訪れていることと思いますが、お祈りするときの心構えについて教えてください。
- 鈴木宮司 心構えの前に、神社とお寺の違いについてお話ししたいと思います。奈良には社寺が多いので、両方同じような見方をされがちですが、大きな違いは、お寺には教えがあり、神社には教えがないということです。
どういうことかと言いますと、お寺は、お坊さんが仏様の教えを説く場です。しかし神社は往古に神様御自ら鎮まり、或いは勧請してできたもので、人々が神様をおもてなしする場です。神主は祭典を奉仕し、神をもてなし、人々は参拝によって神をもてなし、併せて神を感じ、ご縁を結んでいただくわけです。
神社では、気持ちが澄めば澄むほど神様を感じられます。手水で雑念を取ってくださいと言うのも、気持ちを澄ませていただくためです。私どもも、すがすがしい気分になれる境内にしようと努めています。ですから、「きれいな空気」「空気が違う」と言ってもらえると嬉しいですね。「大和は国のまほろば」と言いますでしょう。特に奈良の神社は、「まほろば」らしさを出していくべきなのではと思います。
- ―人と自然との関わりという点では、神社はどんな役割を果たせるとお考えですか。
- 鈴木宮司 西洋の一神教では、自然は人間が支配するものだと考えます。明治以降、日本にもそうした価値観が入ってきましたが、自然を破壊して高度経済成長を遂げた反面、公害が大きな問題になりました。価値観を変えないといけないのではないかという流れの中で、「人間、自然」という縦の関係ではなく、「人間も自然も」という横の関係、多神教の見方が見直されてきたのです。
自然の法則に逆らったものは滅びるといいます。神社は、そうした自然の法則を知る、一つの場であろうかと思います。東日本大震災の津波で流されてしまった神社には、明治以降に山の方から町中へ勧請した神社が多かったそうです。それは近代化に伴い、人々はコンクリートで堤防を築いて安心を得、神社を山の方から生活の場に移したためです。もっとも人の都合ではなく、神様を感じた所にお祀りした神社は津波の届かない所にあって被害を免れています。
自然の流れ、法則に合わせるということ。これは教えというより、昔からの知恵、人々の生き方に根ざすものなのでしょう。
- ―神社という「場」、また、そこでの儀式で、そうしたことを伝えているのですね。ところで、横のつながりということでは、大神神社は出雲大社と交流されています。
- 鈴木宮司 大国主神(おおくにぬしのかみ)が国造りを始めたもののうまくいかずに悩んでおられた時、自らの和魂(にぎみたま)を鎮めよという神示がありました。そうして三輪山にお祀りしたのが大物主大神(おおものぬしのおおかみ)で国造りは成就しました。大物主大神は、大国主神の和魂[幸魂(さきみたま)・奇魂(くしみたま)]です。後に大国主大神は、天照大神(あまてらすおおみかみ)に国を譲る代わりに出雲に祀られますが、出雲に鎮まる前に三輪山に和魂が鎮められたということで、今に続く交流があるのです。神代からの格別のご縁故によりまして、宮司が互いの大祭に参列しています。
近年、大国主神を祀る神社が集い、くにたまの会を結成し、同じ神様を祀るご縁をもってお互いの祭礼に参列し、より深いつながりを感じています。
- ―パワースポットブームもあって、東京など遠方から「弾丸ツアー」で来られる方、また、女性の参拝者も増えているようです。最後に、そうした方々にメッセージをいただけますか。
- 鈴木宮司 女性は増えていますし、男性より真剣にお参りされているように見えますよ。男性は照れから、つい格好をつけてしまうのかもしれませんね(笑)。
東京からの参拝者では、「自然の法則に従って新年のお参りをしたい」と毎年立春に来られるグループや、「神様のお力をより感じたい」と素足で毎月神山登拝されるグループがあります。
よそではなく、なぜ三輪なのか。この地に何か惹かれるもの、光を感じて来られているのです。真剣にお参りすれば、神様は応えてくださいます。
来られる理由は人それぞれだと思いますが、真剣にお参りすることが一番大切だと、私は思っています。
プロフィール
大神神社 宮司 鈴木寛治(すずき かんじ)1944年、愛知県生まれ。68年、皇學館大を卒業して靖國神社に奉職。熱田神宮を経て91年、大神神社権禰宜に就任、翌年、「平成の大造営奉賛会」事務局次長。総務部長、禰宜、権宮司を経て2002年から現職。
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