祈りの回廊

仏様のお住まいは拝観

祈りの回廊 2021年春夏版

長弓寺本堂(外観)

古くは仏様はお堂の外から拝まれました。
そしてお堂という建築物そのものも「仏さまの厨子ずし」として崇拝の対象でした。
お堂の外からお堂の中での参拝へと次第に仏様に近づいていった
祈りのかたちに思いをはせ、奈良県に残るお堂や史跡をご紹介します。

元々の参拝は、お堂の外から
するものだったのですか?

鈴木はい、お堂の中で拝むようになったのは平安時代の末くらいからです。それ以前は外からの参拝でした。法隆寺金堂と五重塔の前に「礼拝石」というものがあり、これは「ここから拝みますよ」という石。堂内は仏様の世界であって、僧侶を含めて人が立ち入るものではなかったんですね。桜井市の山田寺跡でも、膝をつきやすい形状の平たい大きな礼拝石が見つかっています。

教えてくれる人鈴木嘉吉かきち先生

東京生まれ。東京大学工学部建築学科卒業。元奈良国立文化財研究所長。『古代寺院建築の研究』ほか著書多数。

「お堂の外から拝む時代から、
 格子の向こうに見える仏様を拝む時代へ」
霊山寺本堂(外陣の折上小組格天井と、外陣と内陣の仕切りとなる菱欄間と格子)

現在はお堂の中で参拝させていただくことが多いですね

鈴木少しでも仏様に近づきたいという人間の願いで変わっていったんでしょう。東大寺法華堂ほっけどう(三月堂)は、仏様がいる「正堂」と参拝する場所である「礼堂」という二つのお堂でできています。それぞれ別の建物でしたが、鎌倉時代の改築で一つになりました。

屋外にある礼拝石からお堂の中での参拝になり、
グッと仏様に近づいた感じがします。

鈴木これがさらに、一つのお堂の中に仏の世界である「内陣ないじん」と人が仏を拝む所の「外陣げじん」を持つ、長弓寺や霊山寺の本堂で見ることができるかたちへと変わっていったと考えています。この二寺の本堂はいずれも鎌倉時代の建築。ともに奈良市西部を流れる富雄川沿いにあって、ごく近い距離に建っています。しかし建築物としては非常に対照的。長弓寺は反りの美しい屋根や太く長いはりを持つ豪壮な建築です。霊山寺は天井が低く、より身近に思える住宅風の建築です。こうした違いがあるのは面白いですね。

時代のニーズによって、
祈りのかたちは様変わりしていきます。

平安時代後期の作である『 信貴山縁起絵巻 』より。 東大寺大仏殿の扉は内開きで描かれています。
画像:国立国会図書館デジタルコレクションより

東大寺大仏殿

東大寺の金堂である大仏殿は、江戸期の再建の際、一人でも多くお堂の中に入れるようにと、扉は外開きに。

奈良市雑司町406-1

0742-22-5511

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パッと見て、その変化がわかりやすい部分などはあるのでしょうか?

鈴木お堂の扉ですね。扉には内開きと外開き、どちらもあるんです。もともとお堂の扉は内開きでした。仏様が自分の家(=お堂)に「いらっしゃい」と招いてくださる意味があります。しかし人間はわがままですからね。鎌倉時代には仏様に近づこうとして、より多くの人がお堂の中に入れるように、少しでもお堂の中を広く使うことができる外開きの扉になっていきました。

思いのほか合理的というか現実的なきっかけに思えます。

鈴木例えば、天平時代の東大寺大仏殿は内開きでしたが、江戸時代に再建された後は外開きになりました。近年、再建された興福寺中金堂は伝統に従って内開きで復元しています。扉のほかに床も変化しました。元来、仏様は土間に安置されました。それがやがて、人の快適さを求めて、板張りになり、畳敷きになり。参拝者は、外や土間で祈るのが本来でしたが、日本独自の変化を見せます。内陣に対して外陣のスペースもどんどん広くなっていきました。贅沢な話ですね(笑)。人々の祈りに向き合う姿の変化に伴って、様変わりしてきたのです。

ポイント1礼拝石らいはいせき礼堂らいどう

古くはお堂の外から仏様を拝んでいました。 礼拝石はその様子を今に伝えます。

東大寺法華堂の礼堂

写真(上)右手が鎌倉時代築の礼堂らいどう。天平時代築とされる写真(上)左手の正堂しょうどうは別棟でしたが改築の際に一体化しました。

奈良市雑司町406-1

0742-22-5511

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二つのお堂が1つになったことがわかるポイント

正堂と礼堂は屋根の形状が異なります。軒裏を見ると建物の真ん中に雨樋あまどいが。建物が合体したことを伝える痕跡です。

※写真は加工しています。 写真提供:奈良文化財研究所

山田寺跡の礼拝石

山田寺は飛鳥時代に創建された古代寺院。金堂跡の正面中央から礼拝石が発掘されました。現在同所にレプリカが設置されています。

桜井市山田

0744-42-9111(代)
桜井市観光まちづくり課

法隆寺の礼拝石

金堂と五重塔正面に置かれています。当時は僧侶も特別なとき以外は堂内に入ることはできず、この石から参拝しました。

生駒郡斑鳩町法隆寺山内 1-1

0745-75-2555

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ポイント2霊山寺と長弓寺の見どころ

弘安 2(1279)年にできた長弓寺と弘安6(1283)年にできた霊山寺。 格子戸などの共通点や、それぞれの特長があります。

外からわかる拝観ポイント
「跳ね上げ式の蔀戸しとみど

霊山寺りょうせんじ本堂

外陣の折上小組格天井おりあげこぐみごうてんじょうや内陣との仕切りとなる格子、当時の住宅の建築様式「寝殿造」の特長である跳ね上げ式の蔀戸などの意匠の美しさが印象的です。

奈良市中町 3879

0742-45-0081

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堂内でわかる拝観ポイント
はり組入天井くみいりてんじょう

長弓寺ちょうきゅうじ本堂

見上げると格子状になった組入天井、そして優美なラインを描く屋根を支える長さ3間(約5m強)の太い梁が広い外陣空間を実現しました。
※本堂拝観は要事前予約。

生駒市上町 4445

0743-78-2437(長弓寺法華院)

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ポイント3内開き?外開き?

お堂の扉に注目。たしかに内開きと外開きが 混在しています。古くは内開きでした。

吹き放し(壁などのない開放空間)

唐招提寺金堂

奈良時代建立時に「吹き放し」が造られ、内開きの扉直前まで行って、間近に仏様を拝めるようになりました。今も同様に拝観できます。

奈良市五条町13-46

0742-33-7900

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興福寺中金堂

平成30(2018)年落慶。300年ぶりの再建においても伝統を重んじて、扉は内開きに。8代目の金堂となります。

奈良市登大路町48

0742-22-7755

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ポイント4畳敷きのお堂

写真提供:奈良県文化財保存事務所

称念寺本堂

寛永18(1641)年建立。ご本尊のまわり以外は畳敷きとなっているお堂です。現在、保存修理中。(令和4(2022)年春に完了予定)。
※拝観希望の方はご連絡ください。

橿原市今井町3-2-29

0744-22-5509

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